仮に、日本近代文学において東京という「中央」があるならば、本書『現代北海道文学論』は北海道という「周縁」から、二一世紀的な「現在」を鮮やかに照射してみせます。◆◆◆「北海道文学について考えることで、二一世紀的な「現在」を把握する新たな視座を獲得すること。すなわち、読者の世界認識を刷新するものとして、風土性を再考することこそを目指している」(岡和田晃「はじめに」より)◆◆◆
本書は三部構成(+補遺)。その理論基盤としての「惑星思考」とそれに基づく「北の想像力」の可能性が「中央・世界・映像」へ拓かれ(第一部)、「世界文学としての北海道 SF・ミステリ・演劇」を通じて詳述されたのち(第二部)、第三部「叙述を突き詰め、風土を相対化—「先住民族の空間」へ」において、これまで見過ごされてきたであろう問題群—例えば「蝦夷」をめぐる日本古代史/「和人」とアイヌ民族の衝突の歴史(クナシリ・メナシの戦い)/アイヌ口承文学および戦後におけるアイヌ語剥奪の歴史、とその狭間でゆれる人々の存在—等々が浮き彫りにされていきます。補遺パート「「現代北海道文学論」補遺―2018〜19年の「北海道文学」」も必読です。
第二部「「世界文学」としての北海道 SF・ミステリ・演劇」所収の巽先生による「平石貴樹――漂泊者が見た「日本の夢」と限界」は、フォークナーおよびメルヴィル学者としての平石氏の文学、とりわけ作家デビュー作「虹のカマクーラ」における「漂泊者」の眼差しを照らし出すとともに、アメリカの夢と「日本の夢」とが奇妙に波よせあう瞬間——鯨と鰐が相まみえる波間——を浮かびあがらせます。
無論、これまで CPAでフィーチャーしてきた荒巻義雄文学をめぐる論考「荒巻義雄——夢を見つめ未知の世界へ脱出」(藤元登四郎)も第二部に収録されています!(※巽先生が編集委員の一人をつとめられた定本荒巻義雄メタSF全集全八巻(別巻含む)+『附録 荒巻義雄年譜1933〜2015』については下記関連リンクおよびこちらをご参照ください。)
なお、姉妹編にあたる『北の想像力 《北海道文学》と《北海道 SF》をめぐる思索の旅』(岡和田晃編;寿郎社、2014年)には、巽先生と小谷先生ご登壇のパネル「北海道 SF大全@第 51回日本 SF大会 Varicon 2012」を収録。本パネルは、編者岡和田氏が「《北海道 SF》宣言」として位置付ける記念的瞬間!(※CPA記事はこちら)是非この機会に、併せてご一読ください!
『現代北海道文学論
——来るべき「惑星思考」に向けて』
岡和田晃編著
四六判、212頁
藤田印刷エクセレントブックス
2019年 12月
1,800円+税
【目次】
はじめに
第一部 「北海道文学」を中央・世界・映像へつなぐ
- 「惑星思考(プラネタリティ)」で風土性問い直す時/岡和田晃
- 円城塔――事実から虚構へダイナミックな反転/渡邊利道
- 山田航――平成歌人の感性の古層に潜む「昭和」/石和義之
- 池澤夏樹――始原を見つめる問題意識/宮野由梨香
- 桜木紫乃――「ごくふつう」の生 肯定する優しさ/渡邊利道
- 村上春樹――カタストロフの予感 寓意的に描く/倉数茂
- 佐藤泰志――「光の粒」が見せる人の心の揺らぎ/忍澤勉
- 外岡秀俊――啄木短歌の言葉の質 考え抜き/田中里尚
- 朝倉かすみ――故郷舞台に折り重なる過去と現在/渡邊利道
- 山中恒――小樽で見た戦争 自由の尊さ知る/松本寛大
- 桐野夏生――喪失の果て 剝き出しで生きていく/倉数茂
- 桜庭一樹――孤立と漂流 流氷の海をめぐる想像力のせめぎ合い/横道仁志
第二部 「世界文学」としての北海道SF・ミステリ・演劇
- 河﨑秋子――北海道文学の伝統とモダニズム交錯/岡和田晃
- 山下澄人――富良野と倉本聰 原点への返歌/東條慎生
- 今日泊亜蘭――アナキズム精神で語る反逆の風土/岡和田晃・藤元登四郎
- 荒巻義雄――夢を見つめ未知の世界へ脱出/藤元登四郎
- 『コア』――全国で存在感 SFファンジンの源流/三浦祐嗣
- 露伴と札幌農学校――人工現実の実験場/藤元直樹
- 佐々木譲――榎本武揚の夢 「共和国」の思想/忍澤勉
- 平石貴樹――漂泊者が見た「日本の夢」と限界/巽孝之
- 高城高――バブル崩壊直視 現代に問いかける/松本寛大
- 柄刀一――無意味な死に本格ミステリで抵抗/田中里尚
第三部 叙述を突き詰め、風土を相対化——「先住民族の空間」へ
- 渡辺一史――「北」の多面体的な肖像を再構成/高槻真樹
- 小笠原賢二――戦後の記憶呼び起こし時代に抵抗/石和義之
- 清水博子――生々しく風土を裏返す緻密な描写/田中里尚
- 「ろーとるれん」――「惑星思考」の先駆たる文学運動/岡和田晃
- 笠井清――プロレタリア詩人 「冬」への反抗/東條慎生
- 松尾真由美――恋愛詩越え紡がれる対話の言葉/石和義之
- 林美脉子――身体と風土拡張する宇宙論的サーガ/岡和田晃
- 柳瀬尚紀――地名で世界と結び合う翻訳の可能性/齋藤一
- アイヌ口承文学研究――「伝統的世界観」にもとづいて/丹菊逸治
- 樺太アイヌ、ウイルタ、ニヴフ――継承する「先住民族の空間」/丹菊逸治
- 「内なる植民地主義」超越し次の一歩を/岡和田晃
連載「現代北海道文学論」を終えて/岡和田晃×川村湊
補遺「現代北海道文学論」補遺――2018〜19年の「北海道文学」
- 伊藤瑞彦『赤いオーロラの街で』(ハヤカワ文庫、2017年)――大規模停電の起きた世界、知床を舞台に生き方を問い直す/松本寛大
- 馳星周『帰らずの海』(徳間書店、2014年)――時代に翻弄されながら生きる函館の人々/松本寛大
- 高城高『〈ミリオンカ〉の女』(寿郎社、2018年)――19世紀末のウラジオストク、裏町に生きる日本人元娼婦/松本寛大
- 八木圭一『北海道オーロラ町の事件簿』(宝島社文庫、2018年)――高齢化、過疎化の進む十勝で町おこしに取り組む若者たち/松本寛大
- 『デュラスのいた風景 笠井美希遺稿集』(七月堂、2018年)――植民地的な環境から女性性を引き離す/岡和田晃
- 須田茂『近現代アイヌ文学史論』(寿郎社、2018年)――黙殺された抵抗の文学を今に伝える/岡和田晃
- 麻生直子『端境の海』(思潮社、2018年)――植民地の「空隙」を埋める/岡和田晃
- 『骨踊り 向井豊昭小説選』(幻戯書房、2019年)――人種、時代、地域の隔絶を超える/河﨑秋子
- 天草季紅『ユーカラ邂逅』(新評論、2018年)――〈死〉を内包した北方性から/岡和田晃
- 「惑星思考」という民衆史――『凍てつく太陽』(幻冬舎)、『ゴールデンカムイ』(集英社)、『熱源』(文藝春秋)、『ミライミライ』(新潮社)/岡和田晃
初出一覧
編・執筆者略歴
【関連書籍】
岡和田晃編著『現代北海道文学論——来るべき「惑星思考(プラネタリティ)」に向けて』(藤田印刷エクセレントブックス、2019年)
岡和田晃編『北の想像力 《北海道文学》と《北海道 SF》をめぐる思索の旅』(寿郎社、2014年)
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』(彩流社、2017年)
荒巻義雄『白き日旅立てば不死 (定本荒巻義雄メタ SF全集 第 3巻)』(彩流社、2014年)
荒巻義雄『神聖代 (定本荒巻義雄メタ SF全集 第 6巻)』(彩流社、2015年)
荒巻義雄『柔らかい時計 (定本荒巻義雄メタ SF全集 第 1巻)』(彩流社、2015年)
荒巻義雄『カストロバルバ/ゴシック (定本荒巻義雄メタ SF全集 第 7巻)』(彩流社、2015年)
荒巻義雄『骸骨半島 花嫁他 (定本荒巻義雄メタ SF全集 別巻)』(彩流社、2015年)
Yoshio Aramaki /Translated by Baryon Tensor Posadas /Foreword by Takayuki Tatsumi, The Sacred Era: A Novel (U of Minnesota P, 2017) *amazon / 極東書店
【関連リンク】
- 藤田印刷エクセレントブックス
- 『北海道新聞』リレー連載「現代北海道文学論『北の想像力』の可能性」第 20回は、巽先生による「【平石貴樹】漂泊者の文学 日本への夢と限界」です!(CPA: 2016/12/03)
- 大著『北の想像力——《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』(岡和田晃編、寿郎社)刊行!第51回日本SF大会Varicon 2012にて行われた巽先生と小谷先生ご登壇のパネル「北海道SF大全」再録です!(CPA: 2014/06/11)
- 彩流社による荒巻義雄メタSF全集詳細
- 荒巻義雄氏最新作『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』(彩流社)絶賛刊行中!『北海道新聞』に巽先生による書評「未来誘う異界の奇跡」が掲載されています!(CPA: 2017/11/18)
- 05/22:OYOYO ゼミ公開講座「北の想像力―〈北海道文学〉と〈北海道 SF 〉をめぐる思索の旅」に、巽先生がゲストとしてご出演されます!@札幌市 OYOYO カフェ(CPA: 2014/05/14)
- 12/09:「荒巻義雄先生 × 巽孝之先生 with 三浦祐嗣さんトークイベント&サイン会」開催!@東京堂書店 神田神保町店 6階東京堂ホール 19:00〜(CPA: 2014/11/22)
- 定本 荒巻義雄メタSF全集 刊行記念フェアが、東京堂書店 神田神保町店で始まりました!(CPA: 2014/11/26)
- 定本荒巻義雄メタ SF全集第 1回配本『白き日旅立てば不死 (第 3巻)』刊行(CPA: 2014/11/22)
- 定本荒巻義雄メタ SF全集第 2回配本『聖シュテファン寺院の鐘の音は (第 4巻)』刊行(CPA: 2015/02/20)
- 定本荒巻義雄メタSF全集第 3回配本『時の葦舟 (第 5巻)』刊行(CPA: 2015/02/23)
- 定本荒巻義雄メタ SF全集第4回配本『宇宙 25時 (第 2巻)』刊行(CPA: 2015/03/12)
- 定本荒巻義雄メタ SF全集第 5回配本『神聖代 (第 6巻)』刊行(CPA: 2015/04/06)
- 定本荒巻義雄メタSF全集第 6回配本『カストロバルバ/ゴシック (第 7巻)』刊行(CPA: 2015/08/12)
- 定本荒巻義雄メタ SF全集第 7回配本『柔らかい時計 (第 1巻)』刊行(CPA: 2015/08/15)
- 定本荒巻義雄メタ SF全集第 8回配本『骸骨半島 花嫁他 (別巻)』刊行(CPA: 2015/09/28)
- 『定本荒巻義雄メタSF全集附録 荒巻義雄年譜1933〜2015』刊行(CPA: 2015/11/12)