本書は、1970年発表の短編「種子よ」を原型に、1978年に刊行された作者自身も認める代表作。とうに砂漠化した地方出身の主人公 K は、不可知の何かに導かれるように光輝く首都イジチュールで「神聖試験」を受験。謎に満ちた「ボッス星研究」に就くことになります。教義「四位一体」や『南方教典』「種子の章」などを題材に、正統 / 異端をめぐる解釈学的問題が展開されながら、物語中盤、K ははれて宇宙空間へと飛び立ちます。そこで彼を待ち受けていたのは幾多の不可思議…。エメラルド色に輝く都市ローランでは「自動人形」に翻弄され、石で出来た「宇宙時計」では両脚を切断された隠者に出会います。そしてついに「神聖航路」に突入、最終目的地「快楽の園」ボッス星へと向かうことに…。
1980年徳間文庫版に寄せられた荒巻氏によるあとがき「事象の地平線」では、小説理念「経験としての小説」や、原型短編「種子よ」から9年かけて完成された創作経緯、本作に見られる地上と宇宙の境界を「事象の地平線」として捉える重要性、思想基盤としての菱形図形、そして「イジチュール」の由来についてご解説されます。なお、本書は「種子よ」も同時収録!
さらに、筒井康隆氏による徳間版解説と、安藤礼二氏による書き下ろし解説も掲載。筒井氏は、本作に通底するモチーフ、エロニムス・ボッスの祭壇画「快楽の園」と、エッシャーの逆転的発想の世界を詳細に検討することで本作を照らし出し、荒巻世界を堪能するための案内図をご提示されます。安藤氏は、本作を、意識と宇宙が発生する「原初のそこ」を探究した作品とし、鍵としての「イジチュール」をマラルメを考察することでご説明されます。
付録の荒巻氏による解説「たとえば聖書偽典のように」では、原型短編「種子よ」より胚胎されていたタンポポの白い綿毛やディアスポラのイメージから、幼少期におけるキリスト教との接触を思い出しつつ、本作を再考されます。増田まもる氏による「荒巻義雄の超時空間」では、荒巻作品「大いなる正午」や 2007年世界SF大会など様々な「ふいの出会い」を回想されつつ、荒巻氏の詩人としての魅力を語ります。また、安田圭一氏による「「レッドワゴン」の時代」も掲載。本作もどうぞお手にとってみてください!
『神聖代 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 6巻)』
荒巻義雄
巽孝之、三浦祐嗣編
イラスト:中野正一
装幀:渡辺将史
推薦帯:難波弘之
四六判、476ページ
3,200円 + 税
2015年3月刊行
*彩流社による本書詳細
【目次】
神聖代
神聖試験
クララ館
四位一体
南方教典
自動人形
宇宙時計
神聖航路
快楽(けらく)の園
事象の地平線 文庫版のあとがきに代えて
種子よ
解説 筒井康隆
解説 意識と宇宙が発生してくる起源の場所へ 安藤礼二
Introduction (Takayuki TATSUMI)
<付録 月報 5>
たとえば聖書偽典のように 荒巻義雄
荒巻義雄の超時空間 増田まもる(翻訳家)
「レッドワゴン」の時代 安田圭一(イスカーチェリSFクラブ元編集長)
*なお、全集全体は下記のとおりです:
- 第1巻「柔らかい時計」(第7回配本)// 2015 年5月
- 第2巻「宇宙25 時」(第4回配本)// 既刊
- 第3巻「白き日旅立てば不死」(第1回配本)// 既刊
- 第4巻「聖シュテファン寺院の鐘の音は」(第2回配本)// 既刊
- 第5巻「時の葦舟」(第3回配本)// 既刊
- 第6巻「神聖代」(第5回配本)// 今回配本
- 第7巻「カストロバルバ/ゴシック」(第6 回配本)// 2015 年4月
【関連リンク】
【関連書籍】
荒巻義雄『神聖代 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 6巻)』
(彩流社、2015年)


荒巻義雄『宇宙25時 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 2巻)』(彩流社、2015年)


荒巻義雄『時の葦舟 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 5巻)』(彩流社、2015年)


荒巻義雄『聖シュテファン寺院の鐘の音は (定本荒巻義雄メタSF全集 第 4巻)』(彩流社、2014年)


荒巻義雄『白き日旅立てば不死 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 3巻)』
(彩流社、2014年)


岡和田晃編『北の想像力 《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』
(寿郎社、2014年)

- 巽先生が編集委員の一人をつとめられる、定本荒巻義雄メタSF全集の第4回配本『宇宙25時 (第 2巻)』(彩流社)刊行中!(CPA: 2015/03/12)
- 巽先生が編集委員の一人をつとめられる、定本荒巻義雄メタSF全集の第3回配本『時の葦舟 (第 5巻)』(彩流社)刊行中!(CPA: 2015/02/23)
- 巽先生が編集委員の一人をつとめられる、定本荒巻義雄メタSF全集の第2回配本『聖シュテファン寺院の鐘の音は (第4巻)』(彩流社)刊行中!(2015/02/20)
- 荒巻義雄メタSF全集第1回配本『白き日旅立てば不死(第3巻)』が彩流社より刊行!巻末に巽先生による "Introduction" 、付録に小谷先生による「冴子の中のクリステヴァ」が収録されています!(CPA: 2014/11/22)
- 彩流社による全集詳細
- 大著『北の想像力——《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』(岡和田晃編、寿郎社)刊行!第51回日本SF大会Varicon 2012にて開催され、巽先生と小谷先生がご登壇されたパネル「北海道SF大全」再録!(CPA: 2014/06/01)
- 特別展「荒巻義雄の世界」開催記念パネルディスカッション「荒巻 SF の原点を語る」に巽先生、小谷先生ご登壇@北海道立文学館(CPA: 2014/01/21)
- 日本SF作家クラブ50周年記念・国際SFシンポジウム・キックオフ開催のお知らせ(CPA: 2012/06/20)
- 巽先生監修・伊藤優子さん(YOUCHAN)編著『カート・ヴォネガット(現代作家ガイド)』が彩流社より絶賛販売中!(CPA: 2012/09/23)
- ジュンク堂池袋本店にて『カート・ヴォネガット』刊行記念トークショー開催!(講師:巽先生/増田まもるさん/伊藤優子さん(YOUCHAN))(CPA: 2012/11/18)
- SF Prologue WAVEにて、巽先生/YOUCHAN/増田まもる氏の『カート・ヴォネガット』記念特別ロング・インタビュー公開!(CPA: 2012/10/09)
【関連書籍】
荒巻義雄『宇宙25時 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 2巻)』(彩流社、2015年)
荒巻義雄『時の葦舟 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 5巻)』(彩流社、2015年)
荒巻義雄『聖シュテファン寺院の鐘の音は (定本荒巻義雄メタSF全集 第 4巻)』(彩流社、2014年)
荒巻義雄『白き日旅立てば不死 (定本荒巻義雄メタSF全集 第 3巻)』
岡和田晃編『北の想像力 《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』