1996/02/14

REDISCOVERING OZ: An Attempt to Relocate The Wonderful wizard of Oz in American Literary History By 宮本菜穂子


The Wonderful Wizard of Oz のあらすじ
Kansasの大平原に農夫のヘンリーおじさん、エムおばさんと犬のトトと一緒に暮らしていた少女ドロシーは、ある日、竜巻に巻き込まれ、美しい魔法の国、オズにたどり着く。ドロシーとトトは、カンザスに戻るのに必要な大魔法使いオズの力を借りるために、大魔法使いが住んでいるエメラルドの都へ、黄色いレンガの道をたどってゆく。その道中、脳のないカカシ、心のないブリキのキコリ、そして臆病なライオンが仲間に加わる。しかし、大魔法使いは、一行に、「願いを叶えたくば、西に住む悪い魔女を倒してこい。」と命じる。どうしていいのか分からないまま、一行は、西の悪い魔女に、見つかってしまい、ライオンとドロシーは囚われの身となってしまう。西の悪い魔女の傲慢な態度に腹を立てたドロシーは、手に持っていたバケツの水を西の悪い魔女にかけ、すると、魔女は溶けてなくなってしまう。その水たまりを片付け、カカシ、ブリキのキコリ、ライオン、そしてトトを助け、再び大魔法使いオズを訪れると、大魔法使いのはずの人物が、実は、ネブラスカから来た大ペテン師だったという事が判明する。しかし、大ペテン師は、賢いペテン師で、助けを求めてきたオズの住民に彼らが望んでいた脳味噌、心、勇気を形に表し、本来持っていたものに気づかせることに成功した。その三人が、ドロシーとトトには、大魔法使いがオズにってきた気球にオズ本人が一緒に乗って、カンザスに送ることになったが、その気球がオズ一人を乗せ風に飛ばされてしまうと、一行は、最後の助けを求め、南の良い魔女のところを訪れる。すると良い魔女は、ドロシーが飛ばされてきた時に、家の下敷きになった東の悪い魔女の銀の魔法の靴(旅の始めに北の良い魔女にもらい、それ以来ずっと履いていたもの)がカンザスに連れて帰ってくれるということを教える。オズで出会った仲間に別れを告げ、ドロシーは、無事カンザスに帰ることが出来るのだった。


Introduction
原作、The Wonderful Wizard of Oz の著者、Lyman Frank Baumは、1856年 5月 15日に、New York の中上流階級の 7番目の子供として生まれました。15歳の頃から、出版に興味をもったのをきっかけに出版関係の仕事に就きましたが、次々と職業を変えてゆきます。役者、戯曲作家、雑貨屋、ガラス・陶磁器の地方販売員、ウィンドウ装飾関係の雑誌の創刊・出版者を経て、1900年に W. W. DenslowとともにThe Wonderful Wizard of Oz を出版しました。この時既に、Baumは 44歳になっていました。The Wonderful Wizard of Oz は、彼が自分の子供達に聞かせていた物語を、義理の母が「出版するべきだ」と勧め、世の中に出ることとなったのです。当時、出版に際し、出版者側との交渉に手間取りましたが、発売と同時に大ヒットとなり、アメリカ全土、そして後には全世界で有名な児童小説となりました。

その後、自分で戯曲化し、1925年に初めて映画化され、1939年には、あの有名な Judy Garland主演の The Wizard of Oz (MGM) となり、1975年にはブロードウェイで、黒人のみのRock Musical the Wiz として上演され、当時の黒人層の支持を受け、一般社会でも好評を得ました。1979年には、同タイトルで Diana Ross, Michael Jackson, Lena Horne などが出演し、映画化されました。また、1996年には、Children’s Defense Fund の募金集めとして、The Wizard of Oz in Concert: Dreams Come True が上演され、Jewel, Natalie Cole, Jackson Browne, Nathan Lane などが参加しました。

初めてアメリカで生まれた真のお伽話として、The Wonderful Wizard of Oz が 1900年から現在までアメリカの文化・社会の歴史の変遷と深く関係があり、それぞれの再現方法・手段が、アメリカの歴史上、重要な時期と再現時期が似ていたということを、作中登場するキャラクターや象徴性の高い出来事を中心に、今までに比較・考察してきました。しかし、これだけ社会に反映し、支持されながらも、一般のアメリカ文学史の中では、それほど重要視されていません。それは一体なぜか。原作が出版された 1900年頃の文学の特徴はどんなものだったのか。The Wonderful Wizard of Oz は一体文学史の中でどのような位置を占めるのかを考察してゆきたいと思います。


I. The Yellow Brick Road of American Literature
The Wonderful Wizard of Oz が出版された1900年、アメリカ文学史上で、主流とされていた文学ジャンルはリアリズム文学でした。リアリズム文学における著名な作家といえば、Mark Twain, William Dean Howells, Henry James, Stephen Crane, Theodore Dreiser などが挙げられるでしょう。リアリズム文学時代というものの時代設定は、参考にした文献によって異なり、明確に年号を提示することは出来ません。大まかに言って、1880年代後半から 1910年代まで続いていたとされています。リアリズム文学と一言で言っても、その定義は困難で、それをこの場を使って定義するには、時間とスペースが限られているので、ここで1996年に出版された Katherine Kearn 女史の Nineteenth-Century Literary Realism の中で引用されていた Frank Norris のリアリズムの定義を引用したいと思います。
1. "Observe the method employed by the novelists who profess and call themselves 'realists'. . . . We know all about them, about their affairs, and the story of their lives . . . . This is the real Realism. It is the smaller details of every-day life, things that are likely to happen between lunch and supper, small passions, restricted emotions, dramas of the reception-room, tragedies of an afternoon call, crises involving cups of tea." (Nineteenth-Century Literary Realism 252)

リアリズムという概念はしかし、万民共通というわけではありません。人によって日常性というのは変わってきます。The Reader’s Encyclopedia of American Literature では、この時代の作品の特徴を以下のようにまとめています。
2. There was a castigation of sentimentality and of what was called "literary lying" in contrived popular stories; there was a strong influence of the scientific method, as the author tried to study man in the crucible of life; there was increased emphasis upon reporting the American scene as it was actually observed, with more precise rendering of setting, speech peculiarities, customs and occupations. (The Reader's Encyclopedia of American Literature 814)

リアリズム文学の作家はこの技法により、ある特定の物事に対して、客観的であると同時に斬新であることを目指し、アメリカ独自の社会の不平等性や、政治・経済に着目し、外国のリアリズム文学を意識しながらも、アメリカ文化のヨーロッパ文学への奴隷的な依存からの脱出を訴えたのです。

The Wonderful Wizard of Oz は作者 L. Frank Baum が「今日の子供たちを喜ばせることのみを目標として書いた」作品です。それは、原作者が、この作品のイントロダクションにて明記しています。
3. Yet the old time fairy tale, having served for generations, may now be classed as "historical" in the children's library; for the time has come for a series of newer "wonder tales" in which the stereotyped genie, dwarf and fairy are eliminated, together with all the horrible and blood-curdling incident devised by their authors to point a fearsome moral to each tale. Modern education includes morality; . . . the story of " The Wonderful Wizard of Oz "was written solely to pleasure the children of today. (The Wonderful Wizard of Oz 6)

そしてもう一つ大きな特色として、The Wonderful Wizard of Oz は、アメリカを題材として書かれた、初めてのお伽話なのです。1900年以前には、アメリカで書かれた、アメリカを題材とした筋の通った架空の世界は存在しなかったのです。実際、作品の内容を検証してみると、The Wonderful Wizard of Oz においてアメリカらしさが至る所に現れてきます。まず設定されている場所ですが、魔法の国オズ以外の場所で現れるのが、アメリカのカンザスです。冒頭のカンザスの牧場でのシーンは、原作が出版された当時、アメリカに住む 2/3の人がこんな家に住んでいたことを記憶していたと思われるくらいファミリアーな設定だったのです。この場面の描写は、のちに考察したいと思います。


II. Baum’s Realism
次にオズの大魔法使いについて見て行きたいと思います。カンザスの農場から竜巻によって飛ばされ、オズへ到着すると、ドロシーとトトは、あらすじにあるように、オズの住人、そして大魔法使いに出会います.この大魔法使いと彼の住むエメラルドの都は、当時のアメリカに新しく発展したテクノロジーを表していると考えられます。事実、1900年ごろのアメリカ、また全西欧諸国ではテクノロジーに対して恐怖と同時に好奇心、期待が抱かれていました.それが顕著に現れたのが、19世紀の終わりから 20世紀まで続いた万国博覧会のブームです。万国博覧会では、様々な国の生活様式を始め、世界中から新しい発明品が集められ、展示されていました。The Wonderful Wizard of Oz においても、オズ、そしてエメラルドの都は、ドロシーがオズの住人に聞いたところ、恐れている人、素晴らしい所だと思っている人、好奇心を示している人など、様々な反応が返ってきました。しかし、大魔法使いオズの真実の姿を知る人は、誰一人としていなかったのです。1900年前後に、実態があまり知られておらず、実験や、発明を多くし、テクノロジーの発展に貢献した人といえば、Thomas A. Edison が挙げられるでしょう。蓄音機、白熱電球を発明したエジソンは「摩天楼文明を発展させたMenlo Park の大魔法使い( Wizard)」として、アメリカでもヒーロー化されました。メンロ・パークに引きこもり、大衆のための発明をして生い立ちも伝説化されたエジソンは、大魔法使い (The Wonderful Wizard) オズの源であるといえます。

もう一つ、The Wonderful Wizard of Oz で色濃く出ている、アメリカ的な特色として “Home(家)” という概念が挙げられます。アメリカの社会・文化において「家に帰る」ということは習慣的な体験とは別に、「外で成長して、家に戻って来る」という特別な意味を持っています。その成長がどんなものかは、人によってさまざまに定義できるのです。この The Wonderful Wizard of Oz の場合、ドロシーは、アメリカを代表する探検家、放浪者であり、比較的無傷のまま、より広い視野を得て帰ってくるという成長を遂げています。この成長により、読み手も、ドロシーとともに、個人の自由、責任の認識、労働の喜び、より良い世界を創る可能性への希望、機会にたいする人間の優位性、争うことの醜さ、男女の平等、生命の崇拝、知識と感情の調和など多くの価値を認識することができると言えます。

以上を見てきたように、The Wonderful Wizard of Oz で、Baumにとっての魔法=テクノロジーと科学、そして、カンザスに始まってカンザスに終わる"Home"の重要性、すなわち Baumを始めとしたアメリカの、アメリカ人の信念を歌ったアメリカ独特のお伽話であるといえるでしょう。


III. Following the Yellow Brick Road
原作の内容から考察すると、The Wonderful Wizard of Oz は紛れもなくお伽話です。一方Baum自身の手法はどうだったのでしょうか。文学ジャンルとしてこの作品は、児童文学に属するでしょう。そのため、当時主流とされていた文学とは、多少異なったものとして今まで扱われてきました。しかし、児童文学として、この作品を片付けてしまってよいのでしょうか。前に挙げた引用では、リアリズム文学の特徴は以下のように述べられています。
4. "Observe the method employed by the novelists who profess and call themselves 'realists'. . . . We know all about them, about their affairs, and the story of their lives . . . . This is the real Realism. It is the smaller details of every-day life, things that are likely to happen between lunch and supper, small passions, restricted emotions, dramas of the reception-room, tragedies of an afternoon call, crises involving cups of tea." (Nineteenth-Century Literary Realism 252)

これを踏まえて、次の引用を見てください。
5. Dorothy lived in the midst of the Kansas prairies, with Uncle Henry, and Aunt Em, who was the farmer's wife. Their house was small. For the lumber to build it had to be carried by wagon many miles. There were four walls, a floor and a roof, which made one room; and this room contained a rusty looking cooking stove, a cupboard for the dishes, a table, three or four chair, and the beds. . . .(The Wonderful Wizard of Oz 6)

これを見ても分かるように、ヘンリーおじさん、エムおばさんとドロシーの家の描写は、リアリズム文学としての文体の良い例であると言えるでしょう。Baumがアメリカを題材としたお伽話を創りたいと考えた時、当時の技法を使ったことも確かに驚くべきことではありません。これは実在するカンザスのシーンに限らず、オズの国の中でも同様です。例えば、ドロシー達が、大魔法使いのオズが気球に乗って行ってしまった後、南の良い魔女に会いに行く途中、出会ったセトモノの人々の国を通る時にも同様に使われています。
6. "There! . . . . See what you have done! My cow has broken her leg and I must take her to the mender's shop and have it glued again. What do you mean by coming here and frightening my cow?" (Ibid. 230)

このように、我々読者にとっては、架空の場所での架空の出来事でも、その登場人物にとっては、現実的で日常的な出来事なのです。そこの住人にとっては、当たり前の生活習慣なのです。これは、まさしく前に挙げたリアリズムの文体を用いているのであり、読み手により実在しそうな世界というものを与えているといえるのではないでしょうか。この原作が出版された 1900年以降、本当にオズが実在していると信じている人がいたというアメリカの現実によって証明されています。

またそれは、児童文学としてのこの作品の重要な役割があるからともいえます。オズの国がより実在するように、作者が伝えようとする彼のリアリズムの信念が、児童にとって信じやすいものとなるからです。前に挙げた信念は、アメリカが「価値のあるもの」として崇める信念であり、それを本当に信じる者が十分増えれば、アメリカは、オズの国のような素晴らしい国になるだろう、というのが Baumの考え、すなわち、Baumのリアリズムなのです。

それでは、Baumは、オズの国を一種のユートピアと考えていたのでしょうか。Baumは、この時点、すなわち、この作品を書き上げた時には、ユートピアではないと考えていたのではないでしょうか。なぜなら、この作品の最後に、Baumはドロシーを家に帰すからです。ドロシーはこの物語中、一貫して「家に帰りたい」といって、最後に彼女の願いは叶えられます。もし、Baumがオズをユートピアと考えていたのならば、果たして彼女を何もない、すべてが灰色の世界へ戻すでしょうか。もし最初からオズの国をユートピアとして捉えていたのであれば、その後、Baumはオズの国のシリーズを続け、最後にしたように、ドロシーをオズの国へ、ヘンリーおじさんと、エムおばさんを連れて、引っ越させたでしょう。しかし、1900年の時点では、オズという場所をユートピアとしては捉えていなかったと言えます。

しかし、Baumの創り出したオズの国は、全てが悲観的だったというわけでもありません。住人は、自分の与えられた環境をそのまま受け入れ、それに満足し、その中で生活しているのです。それゆえオズの国は、「ユートピアの要素を持ったお伽の国」であると言えるのではないでしょうか。


Conclusion
Andrew Hook氏は、彼の著作 American Literature in Context: 1865-1900 のイントロダクションの中で、「アメリカがこの時期にやっと独自の新しい重要な意味を持った文学形態を確立した」と述べています。これはHenry Jamesなど、リアリズムの主流作家を示しているのですが、L. Frank Baumについても同様のことが言えるのではないでしょうか。しかし、Baumという作家は、今まで、アメリカ文学史の本に名前が挙がるどころか、1960年ごろまで、作品が図書館から追放されてさえいたのです。

Baumは、初のアメリカを題材とした児童文学を成功させました。すなわち、アメリカ独自の児童文学の確立を成し遂げた作家なのです。そしてこの作品は、さまざまな映画化の試み、何度も成功した舞台化、popular culture への数々の引用によって一種の文化として確立しました。これだけの大きな存在になった The Wonderful Wizard of Oz が大衆文化研究が注目され始めた今、アメリカ文学における重要な一作品として文学史の main stream に昇るべき、見逃すことの出来ない作品だと言えるのではないでしょうか。


Works cited
Primary Source
  • Baum, L. Flank. The Wonderful Wizard of Oz. Illustrated by W. W. Denslow. New York: William Morrow, 1987.


Secondary Sources
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  • Earle, Neil. The Wonderful Wizard of Oz in American Popular Culture: Uneasy in Eden. New York: The Edwin Wellen, 1988.
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  • 亀井俊介『アメリカン・ヒーローの系譜』(研究社、1993年)

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