このたび、ハワイ大学出版局より刊行された新著 Two-World Literature: Kazuo Ishiguro’s Early Novels は、カズオ・イシグロの初期三作品——A Pale View of Hills (1982), An Artist of the Floating World (1986), The Remains of the Day (1989)——を主軸に、世界文学という土壌におけるイシグロ文学を、西洋中心的な “one-world vision” に偏り切らない、その視座では必ずしも捉え切れない、“two-world literature” として再定置します。 「信頼できない語り手」や「回想」の手法等々に注視しながら、イシグロ文学がいかに既存の文化的カテゴリを転覆しているかを示したうえで、「個人の記憶」や「国家の歴史」の多層的有様を詳述し、そうした現実世界に生きざるを得ない一個人の「(限定的)主体性」「選択(とその過誤と罪悪感)」および「責任(の処方箋)」に切り込みます。焦点は初期三作品に置かれるものの、Never Let Me Go (2005) や The Buried Giant (2015) も考察の射程にふくまれており、イシグロ文学の輪郭が鮮やかに浮かびあがります。
巽先生の推薦文(裏表紙)と併せまして、ぜひご一読ください!(先生の推薦文は、ハワイ大学出版局の本書詳細ページ “Reviews & Endorsements”のタブからもご覧頂けます!)
Two-World Literature: Kazuo Ishiguro’s Early Novels
Rebecca Suter
Hardcover, 200 pages
Cover art by Thomas Campi
Published: May 2020
Hardback: $62.00
ISBN-13: 9780824882372
University of Hawai‘i Press
CONTENTS
Acknowledgments
Chapter 1: A Two-World Author
Chapter 2: Across and Beyond Cultures
Chapter 3: Memory Can Be in an Unreliable Thing
Chapter 4: Appearance and Pretense: Narrative Responsibility
Chapter 5: The Butler Did It: Diegetic Responsibility
Conclusion: A Two-World Literature
Works Cited
Index
■□□■■ おまけ □■□□■■
カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞した 2017年、『産経ニュース』(10月 11日)には、巽先生の解説「カズオ・イシグロ氏、文学賞受賞——日本的無意識、自然に浸透」が掲載(CPA)、先日 CPAにおいてお蔵出しさせて頂きました(→こちらからぜひ!)。また、同年、『毎日新聞』(10月 19日)には、巽先生と青木保先生による対談「「偉大な感情の力」とは——カズオ・イシグロさんにノーベル賞」も掲載され(CPA)、ノーベル文学賞記念講演@ストックホルムの際には、同誌(12月 8日)に巽先生のコメントが寄せられています(CPA)。なお、それに先立つ 2015年、三田キャンパスでは、文学部創立 125年記念として特別公開インタビュー「カズオ・イシグロが語る」(聞き手:河内恵子先生)が開催され(CPA)、その模様は『三田文學』第 123号(2015年秋季号)からお読み頂けます。ご関心のある方は、併せてぜひ!
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【関連リンク】
- University of Hawai‘i Press
- Rebecca Suter氏によるHoly Ghosts: The Christian Century in Modern Japanese Fiction (University of Hawai‘i Press) が刊行!巽先生が back blurbを寄せています!(CPA: 2016/01/03)
- シドニーで開催されるJSAA-ICJLE 2009 Conferenceにて、巽先生・小谷真理さんご講演のお知らせ/レベッカ・スーター氏司会(CPA: 2009/07/09)
- 巽先生監修、『パラ*ドクサ』第22号「三つのアジア」特集号刊行のお知らせ/レベッカ・スーター氏 "Japan/America, Man/Woman: Gender and Identity Politics in Adriane Tomine and Yoshihiro Tatsumi" 寄稿)(CPA: 2011/01/31)
- Paul Giles教授、ご講演のお知らせ(巽先生司会)/パネルディスカッションにレベッカ・スーター氏ご登壇(CPA: 2011/09/30)
- 総合講座「前衛と伝統」にてレベッカ・スーター氏ご講義「天草四郎の美少年化」(CPA: 2011/12/01)
- 慶應義塾大学G-SECアメリカ研究プロジェクトの活動報告が、G-SECホームページにてアップされています。(CPA: 2013/03/21)
Rebecca Suter, Holy Ghosts: The Christian Century in Modern Japanese Fiction (U of Hawaii‘i P, 2015)
Rebecca Suter, The Japanization of Modernity: Murakami Haruki between Japan and the United States (Harvard East Asian Monographs) (Harvard UP, 2008)