2019/04/23

Book Review 『パラノイドの帝国』


巽孝之
四六判/258ページ
大修館書店/2200円 + 税
2018年11月8日
※大修館の本書紹介はこちら

2018年に刊行された先生の新著『パラノイドの帝国――アメリカ文学精神史講義』。『週刊読書人』や『キネマ旬報』『英語教育』はじめ、各方面より続々と書評が寄せられています。書評の抜粋を、随時更新してまいります!


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2019年4月26日更新
 「いまじにあん便り」(2019年4月9日)で書評されました

 なぜアメリカは、これほどパラノイド・スタイルの温床になるのか。領土も資源も大陸規模で、そこに地球上各地から来た異種雑多な移民が、伝統、週刊、言語という重い文化的装備を互いに共有し得ない人工的国家。この無限に見える広大さと混成が、極度の自由と可能性などとともに一種のパラノイアも生むのではないか。(略)だが巽によれば、パラノイド・スタイルはアメリカ文化の活力の泉である。彼はこれを「一九六〇年代アメリカの精神史的遺産」と見るとともに、その源が初期植民地時代にあるとして、本書を「偏執狂的にして陰謀史観的な物語群の歴史を一貫してパラノイド・ナラティヴの文学精神史と呼ぶ」とする。(略)
 こうして本書は、いわばアメリカのフロイト的無意識を覗かせてくれるのだ。読者は、この惑星上で最強とされている国家の隠された恐怖と欲望と不安を目撃する。――武・アーサー・ソーントン「アメリカの「無意識」を暴露する、もうひとつの文学史――巽孝之『パラノイドの帝国――アメリカ文学精神史講義』」『三田文學』137号(2019年春季) 

 巽さんアメリカ文学史の話ということで、ちょっとカタいかなと思ったけれど、序章のリチャード・ホフスタッター『アメリカの反知性主義』に関する話がやや難しいのを除けば、後の章はSFファンの巽先生の面目躍如といった感じで、面白く読める。
 例えば第4章「空から死神が降ってくる」では、村上春樹の『海辺のカフカ』とポール・トーマス・アンダーソン監督の映画「マグノリア」の両方に空から魚やいろんなものが大量に降ってくるファフロツキーズ(FAlls FROm The SKIES)現象が出てくることに、脱自然現象と超自然現象の現れを見て、自然と文化ではもう足りないのだという結論を引っ張り出す。そしてこの話の枕はラヴクラフトだったりするのだ。
 ピンチョンやディックそれにギブスンあたりは「パラノイド/陰謀論」で語りやすいけれど、巽さんのパラノイド論理は様々なSFやそうでないものを結び付けて駆け抜けていく。そのスタイルは昔から一貫しているのかもしれない。――津田文夫「続・サンタロガ・バリア」第197回 THATTA ONLINE 第370号(2019年3月3日登録・2019年3月7日更新)

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2019年4月23日更新
 本書は、アメリカの精神風土の根本にあった脅迫的幻視者の系譜を、古くは19世紀アメリカ文学の古典メルヴィルから、サミュエル・ディレイニーまで、モンロー初主演映画『ナイアガラ』から近年の問題作『第9地区』まで、あるいは第5代大統領うモンローから当代トランプまで、縦横無尽にたどる。目眩を覚えるほどの論の疾走感は、本人が認めているとおり、それ自体「偏執的[ルビ:パラノイアック]」であり、その不羈奔放な展開(モンロー主義の彼方にマリリンを見透かす幻視力!)はピューリタニズム的であることを遥かに超えてSF的、それはSF研究の泰斗としての巽の面目なのかもしれない。
 ピューリタニズムからSFへ――この跳躍は、いや跳躍ではない、この瞠目すべき連続こそは、宗教を文学を架橋すべく端正な研究を積み上げてきた巽の父、英文学者故巽豊彦氏の仕事の過激な換骨奪胎であり、同時にひとつの誠実な展開でもある、私にはそう思えた。――後藤和彦「ピューリタニズムとパラノイア、精神の血統」『英語教育』20193月号(2018年2月14日)

 かつて私はある文章に「映画は時代を反映し、同時に抗う」と書いたことがある。これは実は巽理論の影響下で書いたものだ。つまり作品の本質にはその時代の思想史、精神史が働きかけているということ。本書もまた、パラノイド(陰謀論)が、反知性主義と共に、19世紀以後の表現を牽引し、創造の駆動力となっていることに着目する。
(略)
 巽は、過去から現在に至る作品群のうちにこそ、想像不可能なものが埋め込まれているとし、それを「未来の記憶」とする。美しい言葉だ。我々も作品からそれを掘り出さねばなるまい。なぜなら作品は時代を反映し、そして抗うからである。――南波克行「「未来の記憶」を掘り出すために」『キネマ旬報』1803号/20193月上旬特別号2019年2月20日) 

 巽孝之『パラノイドの帝国  アメリカ文学精神史講義』は、アメリカ文学が描き出した様々な幻想・SFの構造下に、アメリカ社会に潜在するさまざまな意識的/無意識的な陰謀説的想像力の影響を見出す。その視野は政治・社会・文学を横断するばかりでなく、過去・現在・未来という時間軸を往還し、さらに現在日本SFや村上春樹にも及ぶ。本書は米文学関係者にとってはもちろん、米国社会やSFを知る上でも重要な示唆を豊富に含んでいる。――長山靖生「アメリカという国に宿る陰謀説的想像力」『SFマガジン』第751号(20192月)

 妄想/陰謀論[ルビ:パラノイド]は米国の歴史全体を覆っている。そうした視点から著者は米文学とその周辺を渉猟し(SF論は格別である)、深々と掘り起こす。――「BOOKS & TRENDS『週刊東洋経済』2019119日)

 『反知性の帝国』と、このたび上梓された『パラノイドの帝国』とは、ホフスタッター再考をベースにした文学史・文化史、ひいては精神史の再地図化[ルビ:リマッピング]という点で連続している。だが、ここでホフスタッター/巽が採るのは、高度資本主義下の文化状況を分析する際、さかんに援用された「パラノイア/好きぞふれにー」の二分法ではない。情動を原理とする「反知性主義」としての「パラノイア」、それそのものの内実へと踏み込み、そこから「パラノイド」という心性を腑分けするという方法を選ぶのだ。
パラノイアの作家として巽が挙げるのはフィリップ・K・ディック、対するパラノイドの代表例として言及されるのはトマス・ピンチョン。両者とも、被害妄想と誇大妄想、つまり発火源としての「敵意」と体系化をもたらす「陰謀論」とが、感性的なベースを形成している。しかしながら、パラノイアが「個」に結びついた幻視力を核とするのに比して、パラノイドでは、自覚的に選択された「世界観」が重要だ。加えて、パラノイドは「スタイル」、文体やナラティヴの問題として表現される。つまり、パラノイドの系譜を追い、その現在形を提示することは、美術史や文学史におけるマニエリスムの位相をアップデートさせる作業へを繋がる。このことは、実は高山宏との対談集『マニエリスム談義』(二〇一八年)でも指摘されていたのだが、マニエリスムだからこそ、自己言及的でメタフィクショナルな体裁が「自然」に要請されるということになる。――岡和田晃「マニエリスムとしてのSFで反知性主義的な現実を解毒する」『週刊読書人』(2019118日)

 実に大胆で新しい文学史観ではないか。
 同時に本書は現代のアメリカSFが、近代アメリカ文学の潮流から派生したものであることを明確に論じる。ブライアン・オールディスはその古典的歴史書『十億年の宴』のなかで、〈アメージング・ストーリーズ〉を始めとするパルプマガジンの時代を酷評しているが、本書を読めばそれが彼の偏見だったことが理解できる。
 現代SFは、現代アメリカ文学の潮流から分かちがたいものとして誕生してきたものであるという明察が本書から得られるからだ。
 現代SFは決してゲットーのように隔離などされていなかったのである。
 陰謀史観から見た新しいSFの歴史書がここに誕生したのだ。――礒部剛喜「新しいSF史の誕生」『シミルボン』(2018121日)

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【目次】
はじめに――二一世紀エンサイクロペディアのために

序章 パラノイド・スタイルの精神史――ホフスタッターから始まる
1 リチャード・ホフスタッターの復権
2 『アメリカ政治におけるパラノイド・スタイル』を読み直す
3 ディックとピンチョンの遁走曲

第一章 愚行のパラドックス――テイラー、ゴールドウォーター、トランプ
1 魔弾の射手
2 共和党の耐えられない軽さ
3 愚行のパラドックス

第二章 感電するほどの墓碑銘を――メルヴィル、ブラッドベリ、ヘミングウェイ
1 魔女たちの末裔
2 モビイ・ディック連続体
3 ブラッドベリ・マシーン 

第三章 宇宙アパッチ族――ニール・ブロムカンプ『第9地区』論
1 サイバーパンク新世紀
2 『第9地区』再訪
3 エイリアン・アパッチ降臨
4 南アフリカSFの詩学

第四章 空から死神が降ってくる――ラヴクラフト、アンダーソン、村上春樹
 アンダーソンの『マグノリア』とファフロツキーズの記憶
2 村上春樹の『海辺のカフカ』に見る超自然と脱自然

第五章 惑星思考のスラップスティック――オールディス、筒井康隆、シェリー・ジャクソン
1 カトリーナの眼
2 「リトル・ボーイ再び」の系譜学
3 日米作家の環太平洋的想像力

第六章 都市は準宝石の螺旋のように――サミュエル・ディレイニー『ダールグレン』論
1 ディレイニーの作り方――人と作品
2 ベローナ観光案内――マルチプレックス都市
3 では「ダーレグレン」とは何か?
4 同時代評価からオフ・ブロードウェイまで      

第七章 モンローは誘惑する――トルーマン、ケネディ、ボラーニョ
1 モンロー・ドクトリンの二〇世紀
2 トルーマン・ショウの瞬間――『ナイアガラ』と戦争神経症
3 百年以上の孤独――『悪の法則』と神聖恐怖症
4 ボーダータウン・ナラティヴの起源

第八章 災害狂時代――トウェイン、バラード、ロビンスン
1 マーク・トウェインの「戦争の祈り
2 エコ・テロリズムの言説空間
3 カタストロフィリアの詩学は可能か? 

終章 内乱の予感――エル=アッカド、ウィンズロウ、エリクソン
1 米墨戦争/南北戦争再び
2 中東と中米のはざまで――ボーダー・ウェスタンの消息
3 スティーヴ・エリクソンのポスト・トランプ小説『シャドウバーン』

おわりに

【関連リンク】

【関連書籍】
リチャード・ホフスタッター『アメリカの反知性主義』(原著1963年;みすず書房、2003年)


『現代思想 2017年 1月号 特集=トランプ以後の世界』(青土社、2017年)

『現代思想 2015年 2月号 特集=反知性主義と向き合う』(青土社、2015年)


高山宏 × 巽孝之 『マニエリスム談義——驚異の大陸をめぐる超英米文学史』(再彩流社、2018年)


巽孝之編著 『反知性の帝国―アメリカ・文学・精神史』(南雲堂、2008年)


巽孝之 『ニュー・アメリカニズム』(青土社、2005年)

巽孝之『メタフィクションの思想』(『メタフィクションの謀略』、筑摩書房、1993年/筑摩書房、2001年)



巽孝之『メタファーはなぜ殺される』 (松柏社、2000年)

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