また、本号には、慶應義塾福澤研究センター所蔵「梶原可吉宛阿部章蔵(水上瀧太郎)未発表書簡 [承前・完] (網倉勲)」が収録されており、加えて、水上瀧太郎と小泉信三の、互いを「信さん」「章さん」と呼びあう二人の絆を、今回発見された章蔵書簡も参照しながら丁寧に辿る「信さんと章さん――小泉信三の水上瀧太郎喪失」(都倉武之)も掲載されています。
連載としては、今福龍太氏による「群島創世記[第三回]浮遊する音の波間へ」が、「楽器は旅をする」という印象的な言葉から始まり、メキシコのコリードから、ブラジルのカヴァキーニョ、奄美大島の三線、台湾の月琴に至るまで、楽器の背後にある移動・抵抗・変容の歴史、「クレオール化の生命運動の揺らぎ」、そしてそれぞれの楽器の演奏者との交流が詳述され、「浮遊する音の波間」を進む「不協和音的・非平均律的な真実の探求」としての旅が綴られます。また、佐藤元状先生による「映画評:電影的温故知新 [第二十七回] 」は、マッテオ・ガローネ監督の『ドッグマン』が取り上げられ、本作の「単数的で直線的なリアリズム」が「人間の欲望をストレートに描き出すための最善の方法」であること、そして主人公マルチェッロの本作における顛末に観客がいかにとらえられてしまうかが明らかにされます。
書評セクションでは、河内先生による「ことばに慈しまれた者たち——ピップ・ウィリアムズ『ジェリコの製本職人』(最所篤子訳)」において、登場人物であるペギーやエズメがいかに「辞典」からはみ出ていく「書かれたことのない」言葉、書きとめなければ忘却されていく言葉をひろいあげ、そうした言葉を媒体として生まれてくる「女たちの連帯」がいかに「力強く」提示されているかが浮彫にされます。巽先生による「ニューヨーク文学の秘儀——ポール・オースター『4321』(柴田元幸訳)」は、オースターの最後から二番目の長編小説『4321』の複雑なプロット(主人公アーチー・ファーガソンの四つの人生)を簡潔かつ明快に概観し、最後の読みどころを教えてくださいます。
ご関心のある方は、ぜひご一読ください!
【目次】
■巻頭詩
星雲と文字 野木京子
■小説
汽水 グレゴリー・ケズナジャット
もう一つの『沈黙』――小日向こひなた切支丹屋敷伝 大澤眞里
■往復書簡
大草原と東京をつなぐ文学の通信[第三回]
喪失の先にあるもの――記憶に託す思い 朝吹真理子/索南才譲
■詩
やどかり(草稿) 松本秀文
■水上瀧太郎未発表書簡
慶應義塾福澤研究センター所蔵:梶原可吉宛阿部章蔵(水上瀧太郎)未発表書簡 [承前・完] 網倉勲
信さんと章さん――小泉信三の水上瀧太郎喪失 都倉武之
■評論[第二十九回三田文學新人賞 受賞第一作]
「歴史小説」に抗って『流離譚』と『天誅組』 粟津礼記
■エッセー
北極肺がん騒動記 角幡唯介
あの時代と『三田詩人』 若栗清子
■連載
■対比列伝 作家の仕事場[第七回]母語の外へ リービ英雄vs多和田葉子 前田速夫
■群島創世記[第三回]浮遊する音の波間へ 今福龍太
■リレーエッセー/論
■詩/エッセー/詩から明日へ[第八回]詩が科学であるための序説 広瀬大志
■演劇随想/舞台の輝き[第八回]いま演劇について考えていること 岡田利規
■演劇時評[第四回・最終回]見えない暴力に抗う――果てとチーク『害悪』 柴田隆子
■短歌/随筆
歌評たけくらべ[第十四回] 水原紫苑×川野里子
■俳句/随筆
融和と慰謝の俳句[第十三回] 髙柳克弘
■映画評
電影的温故知新 [第二十七回] 佐藤元状
■学生創作セレクション14
青に、潤む 篠田菖子
解説 粂川麻里生
■書評
永方佑樹「字滑り」(『文學界』所収) 小島日和
ピップ・ウィリアムズ 『ジェリコの製本職人』(最所篤子 訳) 河内恵子
嶽本野ばら『ピクニック部』 白金絵莉
ポール・オースター『4321』(柴田元幸 訳) 巽孝之
新井高子『おしらこさま綺聞』 今宿未悠
新 同人雑誌評 佐々木義登/加藤有佳織
ろばの耳 荒井敬史/河村直希
■イベント
西脇順三郎生誕記念 アムバルワリア祭XIV
西脇順三郎と「馥郁タル火夫」たち――モダニズムの再検討は何をもたらすか?
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