巽孝之『サイバーパンク・アメリカ (KEISO BOOKS)』
勁草書房、1988年
今回の書評集では、1988年に刊行された巽先生の処女作『サイバーパンク・アメリカ』を取り上げます。第一作目にして、そしてSF研究にして、日米友好基金賞を受賞された記念すべき著作です。受賞記事も特別掲載いたします!
◆◆◆
2022年 3月 12日更新
本書は、去年三月に慶應義塾大学を定年退職し、監修を務めた大著『脱領域・脱構築・脱半球――二一世紀人文学のために』を上梓された著者の、約三十年前に刊行したデビュー作の「増補新版」である。ほぼ同時に刊行されたこの二冊を通読することで、改めて著者の仕事の中での「SF」が持つ重要性を再認識できる。(中略)作家や批評家、編集者のインタビューや会見記、さまざまなコンベンションの参加リポートなど、豊富な情報を理論家らしく精緻に分析しながら、アメリカで渦巻く運動の熱気にみずからぶつかった生々しい印象で彩った本書の文体は、著者自身も述べているがまるで一編の青春小説のようで、そのみずみずしさはいまもまったく色褪せていない。(中略)二十一世紀も二十年を過ぎて、グローバリズムの理想もあえなく破綻し、国家資本主義による富の収奪戦が市場の全面を覆っている現在。SDGsなど企業が倫理を意識することを市場戦略として採用し、SF作家も SFプロトタイピングなどの方法でそこに参入していこうとしているわけだが、サイバーパンク・ムーヴメントのラディカルさをその出発点において再確認するのはいまが絶好のタイミングであり、本書はそのためにうってつけの一冊だろう。 ——渡邊利道「ラディカルなハード SFとしてのサイバーパンクを想起するために」『図書新聞』2022年 3月 5日、第 3533号
◆◆◆
2022年 1月 28日更新
フルブライト・ジャパンのフェイスブック、“Book Publication by a Fulbrighter” で紹介されました。
◆◆◆
そのギブスンをはじめ、ブルース・スターリング、ジョン・シャーリイ等十一人の作家、編集者の仕事やその知的背景を追ってインタビューも含めて構成されたのが本書である。小型の本であり、よくある手軽な紹介と思って手にとったら、とんでもない。完璧にとは言えないが、かなりの濃い密度で、今の時代がなぜこの分野を必要としているかが描き出されている。
栗本慎一郎『朝日新聞』02/05/1989
B6判二七〇ページの本書を最初に手にとったとき、一七〇〇円はちょっと高いかな、という気がした。しかし読み進んで内容の豊富さに感心し、巻末の三〇ページにも及ぶ細かい活字の「サイバーパンク書誌目録」と「サイバーパンク年表」まできて、むしろ安いという印象にかわった。2月の『朝日新聞』書評欄で栗本慎一郎がいみじくも述べていたように、お手軽なサイバーパンク紹介書ではなく、立派な研究書である。
平山洋『パピルス』05/15/1989
この本で巽はフィールドワークに徹する。肉声を集め、コンベンションの「のり」を再現し、ギブスン、スターリング、シャーリー、ディレーニとゴキゲンな談義を展開する。俊足のフィールダーの、大リーガー的ハッスルプレイ。いいじゃないか、こういうのって。
佐藤良明『翻訳の世界』03/1989
かくして最後に本書は、SFの現実を建設的な言説に再構成してみせたという点において、「SF批評の体裁をとったSF」でもあり、以上述べた存立の構造ゆえにまた、新しい文芸批評のひとつの方向性を示唆するものであると言っても、おそらく過言ではない。
後藤将之『週刊読書人』02/27/1989
サイバーパンクの熱気むんむんの中に入っている読者にこんな書評は必要ない。彼らはすてに著者の能力をよく知っている。私はこの機会に、一般的に現代文学に関心のあるひとに本書を勧めたいのだ。そうして本書で論じられ、インタビューされている作家(ギブスンをはじめ、ブルース・スターリング、ジョン・シャーリー、それからサイバーパンク・プロパーではないがディレイニーなど)の邦訳作品を読んでいただきたい。現在の米国ミニマリズム小説に満足できない読者には特に。
志村正雄『週刊ポスト』04/21/1989
ディレイニーは言う、「サイバーパンクという私生児には当然『父』は存在しないが——あるいは、あまりにも父が多すぎて不在同然なのだが——厳然として『母』はいるんだ」と。たしかにこのディレイニーの言葉は、サイバーパンクのみならず本書『サイバーパンク・アメリカ』の陰画までも垣間見せてくれるほど示唆的だ。80年代を刻んだサイバーパンクを語る本書に、もし続編が書かれるとしたら、それは確実に母たちの物語をも綴るにちがいない。
宇沢美子『アメリカ学会会報』11/25/1989
そしてサイバーパンクが横断し、習合し、蹂躙したさまざまなクロスオーヴァ・メディアをも内包して、ますます巨大にふくれあがる情報体<テクストラ・テレストリアル>が、もし万一「サイバーパンク・ジャパン」について語りだしたとしたら、それこそ正に<マトリックス>の神経症、すなわち<ニューロマンサー>より他にないだろう。われわれは今、期待不安のように、孝之のその発病を待っているのである。
野阿梓『SF-Eye JAPAN』05/1989*こちらの書評はウェブで全文お読みいただけます。
SF界の動向や作品の紹介に、インタビューや会見記あるいは著者自身のサイバーパンクへの参加記録なども適宜盛りこみ、この流行現象の表舞台と楽屋裏を興味津々に綴ってみせる。ジャーナリスト巽孝之の面目躍如といったところだ。なによりも、気楽に読めるアメリカ80年代SFグラフィティとして歓迎したい。
牧眞司『週刊読書人』01/30/1989
特にインタビューというにはあまりにも著者の姿勢は“構成的”なものであって、対話はおうおうにしてスリリングな“誘導尋問”の様相を示す。「運動」の作家や編集者たちもいずれ劣らぬ論客ばかりなので、彼らの撃ち出す「手」もまた楽しめる。サイバーパンクの現状追認をはからずも逸脱してしまったいくつかのパッセージ、そこにこの本のいまひとつの魅力がある。
上野俊哉『図書新聞』03/04/1989
もちろん、数々の邦訳も書店に並んではいる。しかし一大ムーブメントのわりには、その出生の地である米SF界で何が起きているのか、いまひとつ見えないまま、ここまで来てしまった感が強かったのだが、ようやく生々しい現場レポートとでも言うべき好著が出た。
松沢呉一『Crossbeat』04/1989
サイバーパンクというムーブメントがSF界から拡大していく現在、その発生らの過程を至近距離で観察しつづけた著者。彼がW・ギブスン、B・スターリングなどサイバーパンク作家や運動に貢献した雑誌編集者や批評家たちとのインタビューを通じてその現代的な感覚美学を描写する。
無署名『Brutus』 04/01/1989
本書はこの10年来、W・ギブスンやB・スターリングらを中心に、そんなお上品なSFに鋭くノンをつきつけているサイバー・パンク・ムーヴメントを、作家たちへのインタビューをまじえつつ走査する。
無署名『Elle Japon』 02/20/1989
海外でも紹介されました!
My friend Takayuki Tatsumi, who published an essay on Delany in this journal in 1987 and who studied with Delany at Cornell, has sent me a copy of his book Cyberpunk America published by Keiso Books in 1988. I would review it except that I don't read Japanese, and we seldom review books in languages other than English. Viewing the pictures, though, I can tell that Tatsumi writes about Delany, William Gibson, Bruce Sterling, and others, including David Hartwell. In other words, the enterprise of science fiction is multiplex and includes many signs and individuals that we cannot yet read.
Donald Hassler Extrapolation Spring 1990
The whole SF community of Japan now seems to be waiting for Takayuki Tatsumi's next move, one that is already half-promised to be a bigger success.
Goro Masaki Science Fiction Eye 03/1990
A 310 page hardcover, it's a critical analysis of this oft-discussed "movement," focusing on the principal writers associated with it, including several critics, such as Larry McCaffery, who directed the 1986 SFRA Conference in San Diego. The book received the 1988 American Studies Book Prize sponsored by the Japan-U.S. Friendship Commission, which is chaired by Glenn Campbell, director of Stanford's Hoover Institution.
Neil Barron SFRA Newsletter June 1989
【特別掲載:日米友好基金賞受賞記事】
- 「巽孝之氏 日米友好基金賞受賞!」 『SFM』08/1989
- 「祝・巽先生 日米友好基金賞受賞報告」 『HORIZM』11/23/1989
- "SF in Japan" Locus 03/1990