2012/05/01

Book Reviews『メタフィクションの謀略』

巽孝之書評集
『メタフィクションの謀略』


1993年の刊行から約20年、2001年の文庫化から約10年、しかしいまだ褪せることのない『メタフィクションの謀略』。その魅力を、当時各紙誌に掲載された書評から振り返ります。なお、巽先生へのインタビュー記事や、先生自身によって書かれた本書紹介文も、特別掲載。お見逃しなく!


現実が仮想現実と化した今、旧来の文学理論はもはや無効である。ピンチョン、エリクソン等を手掛かりに新たな文学の可能性を開く 。
高山宏『ちくま』03/01/2001

現代的メタフィクションのイデオロギーの源泉をオーウェルの『一九八四年』に見て、ピンチョンの『重力の虹』やエリクソンの『アーク・デックス』といった作品を精緻に解読し、最後にはごく最近の「アヴァン・ポップ」の発生を目撃するまで、巽孝之は惓むことなく現代文学に「伴走」し続ける。
沼野充義『図書新聞』03/05/1994

ジョン・バースやトマス・ピンチョンに代表されていたメタフィクションのイメージを、時代的には、それ以前の時代、ポウやルイス・キャロルに、またそれ以後は、スティーヴ・エリクソンやウィリアム・ギブスンに拡げ、文学史的かつ文化史的に、またアメリカ論的に、その隆盛の必然をあとづけ、さらに今後の行方をうらなう一冊といえよう。あるいはさらに地理的には、筒井康隆や沼正三といった現代日本の作家にも拡げて、著者はさながら水を得た魚、躍動感にも臨場感にもあふれ、博覧強記、熱のこもった一冊となっている。
千石英世『英語青年』 03/01/1994

Tatsumi offers plausible readings of the contemporary sociocultural landscape on both sides of the Pacific. An insightful cross-cultural study of both American and Japanese society in the postmodern / late capitalist age, it examines the writings of Pynchon, Barth, Federman, Rudy Rucker, Yasutaka Tsutsui, and other postmodernists in relation to a "theory of metafiction."
別府恵子 American Literary Scholarship. 1993 

西欧文学との遭遇から出発した日本の近代文学は、そもそも西欧文学の様式は受け入れず、いっさいを技法に回収する形で伝統のなかに移植してきた。同じ構図がいまなお続いているわけである。ではどうするのかといって、容易に答えの出る問題であるはずもないが、いずれにせよ巽氏の著作は、私が直面する事態について、あらためて省察する機会を与えてくれた。
奥泉光『新潮』03/1994

 氏についていつもながら驚かされることは、その膨大な知識量である。本書も最新の作品や研究書、論文にまで幅広く言及し、さらに網羅的な参考文献リストが含まれるために、この200頁ほどの本の情報量は計り知れない。従って、本書は世界的に見ても重要なメタフィクション論と成り得ているし、日本で研究する我々にとってはまず手にすべき本であろう。次は氏の書き下ろしによる現代アメリカ文学論をぜひ期待したいところである。
上岡伸雄 American Studies News Letter. July 1995  

ヴァーチャルリアリティ発見以降、ぼくらはリアリティ認識において変容を被っているはずである。たんにそれを認識だけの問題に化すことなく、巽氏は資本主義世界に暮らしているぼくらの消費欲望(無意識)との関連からも解きおこしてくれた。おかげで、ぼくらは「現代」(そして、ぼくら自身)を読むという最もスリリングな思索の旅を追体験できるのだ。
越川芳明『中央公論』02/1994 

著者とは、フルブライト四十周年のシンポジウムで同席した。本書を手にしたとき「アッ、ノメリコムナ」と悪い予感がしたが、果たして、こんなに「甘美で邪悪な罠、危険で致命的な蠱惑」(著者がポストモダン・フィクションを呼んだことば)にとらえられたことは近頃ない。文学のディズニーランドでスゴイ頭のいい美女にあったみたいだ。
小中陽太郎『産経新聞』02/15/1994

才気がはじけるような評論集である。はじめ“メタフィクションの謀略”に引っかかるのでないかと後込みする人も、読み進むにつれ、いつしか周囲世界のリアリティに異様な亀裂が入りだす不思議な愉悦にひたれるはずだ。
西垣通『読売新聞』01/17/1994

六〇年代から九〇年代までのメタフィクション作品の謀略的イデオロギーを露呈化した本書は、メタフィクション批判そのものへとは向かわない。まるで批評言説がメタフィクティヴな磁場に再回収されてしまうというジレンマを忌避するかのように、インターテクスチュアルな比較文学論の体裁を擬装しつつ、歴史・国家・階級・人種・性差、そして文学ジャンルと文学史をめぐる挑発的な「暴き」の理念がひたすら前景化されてゆく。
榎本正樹『週刊読書人』02/11/1994

次々と作品内部を解体させながら、さらに内部に多層的に折り重なる文学的鉱脈を露呈してみせるのは、ほかならぬ巽氏の博識と批評眼の確かさに負う。
また入れ子構造の中枢に、原型的あるいは神話的、全地球的、全歴史的な時空間を包括した上で、高度資本主義のイデオロギーを背景に、ポストモダニズムの現在に立脚した今日の文学の在(あ)り様を的確にとらえており、研究者のみならず、文学愛好家にとって格好の新しい文学入門書となっている。
今村楯夫『東京新聞』01/23/1994

【特別掲載:巽先生へのインタビュー記事】

【特別掲載:巽先生の手による本書紹介文 】