日米友好基金賞受賞!
最初にその言葉を聞いたとき、あなたはどんな感じをもたれるだろうか?
「?」
なるほど。しかしそれが新たなSFを生みだそうとするムーヴメントの名だと知ったとき、その「?」は「!」に変わっていったのではなかったか?
一九八六年七月にウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』が邦訳出版されてからすでに三年ちかい歳月が流れようとしている。この間、本誌の二度にわたる「サイバーパンク特集」をはじめ、日本ではサイバーパンクに関するさまざまな出版物が刊行されたばかりでなく、その言葉は広告のコピーにまで使われ、デパートはイヴェントを開催し、ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリングはあいついで来日するという、スーパー・フィーバーぶりだったのだ。
巽孝之氏の『サイバーパンク・アメリカ』は、このサイバーパンクの活動を、その本場アメリカで目撃した氏が、ムーヴメントに対する深い洞察をもって書き上げた、サイエンス・フィクションの新たな胎動の研究と記録である。
本誌に連載された「アメリカSFグラフィティ」とやはり本誌に掲載されたいくつかの作家インタビュウをもとに大幅な加筆訂正を経て完成した本書は、氏が直接に得た情報の重みが感じられ、読物としてもすぐれたできばえを見せている。
この『サイバーパンク・アメリカ』が一九八八年度日米友好基金賞を受賞した。この賞は前年度に発表された日本語によるアメリカ研究の学術書にあたえられるもので、社会、文学、歴史の三部門にわかれており、巽氏の著作は文学部門の受賞となっている。とくに、受賞作が若手研究者の単独による処女作であるというところに、日本におけるアメリカ研究進行の一助としたいという賞の趣旨が現れているようだ。
受賞式は五月二十四日、東京六本木の国際文化会館で行われ、賞の性格上当然ともいえるかもしれないが、式次第から受賞者あいさつまですべて英語で行われた。
巽氏が今月の「WORLD SF REPORT」でその活動にふれているラリイ・マキャフリイ氏も会場に現われ、本誌編集長と語り合う一幕もあり、なごやかななかにも国際的な雰囲気を持った受賞式だった。今後の巽氏のさらなる活躍を祈りたいと思う。
-----『SFM』08/1989