2016/07/01

【お蔵出しです!】巽先生による紹介文「宮本隆司『九龍城砦』」/2000年 6月刊行『週刊 朝日百科 世界の文学 第 48号:SFと変流文学−−ニューロマンサー、闇の左手、英雄コナン…<境界の解体>』

2000年 6月に刊行された、巽先生責任編集による『週刊 朝日百科 世界の文学 第 48号:SFと変流文学−−ニューロマンサー、闇の左手、英雄コナン…<境界の解体>』から、巽先生による紹介文「宮本隆司『九龍城砦』」を下記に特別お蔵出しいたします!



『週刊 朝日百科 世界の文学  第48号(通巻 1277号)』
SFと変流文学−−ニューロマンサー、闇の左手、英雄コナン…
<境界の解体>
責任編集:巽孝之
朝日新聞社、2000年 6月 6日
定価 576円(税込)
朝日新聞社による本誌詳細

◆◆◇◆◇◇◆◆◆◆「宮本隆司『九龍城砦』」(巽孝之)◆◆◇◆◇◇◆◆◆◆
にたった 1枚の「絵」によって境界解体の時代精神を表象するとしたら、いまは無き香港の高層建築・九龍城砦以外にあるまい。九龍城砦は、1839年に勃発したアヘン戦争後に香港島がイギリスは譲渡されたのちにも例外的に管轄権が及ぶという曖昧な立場にあった。巨大にして猥雑劣悪な居住環境にもかかわらず、まさしく政治的真空地帯であるという性格のために、中国の社会主義化を逃れた裏社会の絶好の拠点と化し、以後「東洋のカスバ」とも「犯罪の巣窟」とも「魔窟」とも「浮遊するスラム」とも呼ばれ、写真家・宮本隆司自身はこれを「中国人の集合的無意識の巨大な結晶体」と見る。現実には 1992年夏に取り壊されてしまったが、しかしなおもサイバーパンク小説やテレビ・ゲームの舞台として設定しようとする向きは、後を絶たない。かつてイギリスと中国の境界に聳えた城砦都市は、いまでは現実と仮想現実を蹂躙しながら立ち現れる「闇の都」なのである。
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宮本氏と巽先生
『ミメーシスの詩学―安東伸介著述集』(慶應義塾大学出版会、2013年)
打ち合わせに際して@安藤伸介邸

なお、7月 2日(土)には、宮本隆司氏と巽先生によるトークイベント「世界文学における九龍城砦」が、キャノンホール Sにて下記のとおり開催されます!ご関心のある方は、こちらもなにとぞお見逃しなく!

■■■トークイベント「世界文学における九龍城砦」■■■
日時:2016年 7月 2日(土)13:30-15:00
会場:キャノンホール S
(東京都港区港南 2-16-6 キャノン Sタワー 3階 ※アクセス
ゲスト:巽孝之氏(慶応義塾大学文学部教授、SF評論家)
主催:キャノンマーケティングジャパン株式会社
キャノンマーケティングジャパンによる詳細
キャノンギャラリーによる詳細

※事前予約制
定員:300名(先着順、参加無料)

◇◇◇九龍城砦の謎めいた存在は様々な表現領域に刺激を与えました。中でもSF文学に与えた影響は大きく、多くの作品に重要な建物として登場します。貴重な写真を投影しながら慶応大学教授の巽孝之氏とその謎を解き明かします。(※HPより)◇◇◇

【作家プロフィール ※HPより
宮本隆司(みやもと りゅうじ):1947年、東京生まれ。1973年、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。建築雑誌「住宅建築」編集部員を経て独立。解体中や放置された建築を撮影して発表、廃墟の写真家として知られる。1989年「建築の黙示録」「九龍城砦」展覧会、写真集により第 14回木村伊兵衛写真賞受賞。1996年「KOBE 1995 After the Earthquake」展示により第 6回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展金獅子賞受賞。2005年、世田谷美術館個展「ピンホールの家」展示により第 55回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2012年、紫綬褒章受章。2014年、徳之島アートプロジェクト実行委員会代表として活動の範囲を広げつつある。

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なお、本誌『週刊 朝日百科 世界の文学 第 48号:SFと変流文学−−ニューロマンサー、闇の左手、英雄コナン…<境界の解体>』には他にも、巽先生による「醒めた目で政治を見つめ続けた文学が、あらゆる境界を解体する。」や、小谷先生による「ハイパー・ジェンダー」が収録。前者では、境界解体の予兆を 1963年 11月 22日の第 35代大統領ジョン・F・ケネディ暗殺に求め、以後サイバーパンク、アヴァン・ポップへと至る混成主体を主軸とした「解体の歴史」が概観されます。また後者では、60年代後半の SF界で活躍した女性作家に光があてられ、アーシュラ・K・ル・グウィン『闇の左手』(1969年)から、70年代以降大きな潮流となった「ユートピア/ディストピア」の主題、そして 80年代ダナ・ハラウェイの「サイボーグ宣言」に至る問題系が解説されます。目次は下記のとおり。ご興味のある方は、この機会にまた一度お手にとってみてください!

【目次】
  • 醒めた目で政治を見つめ続けた文学が、あらゆる境界を解体する。(巽孝之、慶應義塾大学教授)
  • フィリップ・K・ディック 偽の記憶、崩壊する現実(菊池誠、大阪大学教授)
  • ウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリング サイバーパンクの「正典」(新島進、レンヌ第二大学大学院生)
  • スティーヴ・エリクソン もう一つのアメリカ合衆国史(下河辺美知子、成蹊大学教授)
  • キャシー・アッカ パンクな女たち(栩木玲子、法政大学助教授)
  • スチームパンクの担い手たち(風間賢二、幻想文学研究家)
  • ヒューゴー・ガーンズバックほか SFの歴史(永瀬唯、評論家)
  • <センター>宮本隆司『九龍城砦』(巽孝之)
  • サミュエル・R・ディレイニーほか 六〇年代ニュー・ウェーヴ(大野万紀、評論家)
  • ドン・デリーロ−−イメージが巣くう社会(上岡伸雄、明治大学教授)
  • アーシュラ・K・ル・グィンほか ハイパー・ジェンダー(小谷真理、評論家)
  • アジア系文学の興隆(小林富久子、早稲田大学教授)
  • ロバート・E・ハワードほか ヒロイック・ファンタジー(ひかわ玲子、作家)

  • アヴァン・ポップ(秋元孝文、甲南大学講師)
  • 文学小事典

  • [男うた女うた 48]心動く夕暮れ(馬場あき子、歌人)
  • [文学を旅する 48]フィラデルフィア(亀井俊介、岐阜女子大学教授)
  • [マンガ 超誤訳・世界文学全集 48]アンドロイドは電機羊の夢を見るか(高橋春男)
  • [世紀末パリの怪物たち 43]オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン(鹿島茂)

【関連書籍】
『週刊 朝日百科 世界の文学 第 48号:SFと変流文学−−ニューロマンサー、闇の左手、英雄コナン…<境界の解体>』(朝日新聞社、2000年)


安東伸介『ミメーシスの詩学−−安東伸介著述集』(慶應義塾大学出版会、2013年)


巽孝之 編著、新島進 他著『増補改訂版 ウィリアム・ギブスン 現代作家ガイド 3』(彩流社、2015年)