2012/06/05

Book Reviews『恐竜のアメリカ』


巽孝之『恐竜のアメリカ (ちくま新書)』
筑摩書房、1997年

1997年に刊行された『恐竜のアメリカ』は、数世紀を超えて展開される刺激的な恐竜文学論!本ページ末尾の【特別掲載】では、巽先生自らが、ご著書を語ります。こちらも要チェック!


若き天才の知識の連環に息を呑む。キーワードは博識を生かす編集だ。
高山宏『Do Book』01/1998

『恐竜のアメリカ』は、メルヴィルやトウェイン、ヴォネガットといったアメリカ作家はもちろんのこと、イギリス系進化論とアメリカ系古生物学、そして今世紀末の人工生命論にまで目配りし、社会文化史的な観点から巨大妄想の深層を解剖した小さな大作である。
風間賢二『図書新聞』12/27/1997

十九世紀の古生物学が発見した恐竜が、アメリカ文学の「巨大妄想」をどのように刺激し、いかなる文学表現に結晶したかを論じたもの。「ジェラシック・パーク」や人工生命にまで話題が及び、楽しい。
大澤真幸『朝日新聞』09/21/1997

十九世紀の化石発掘競争などの史実の分析から『ジェラシック・パーク』に登場する恐竜の遺伝子捜索の錬金術的側面を分析して見せたりと、広範な知識を緻密でアクロバティックな論述の展開で恐竜のイメージの成立過程を検証する姿勢に圧倒される。
大倉貴之『週刊読書人』10/17/1997

ひょっとすると、実際の恐竜小説よりも面白い恐竜論として知的に楽しめる一冊である。
渡辺英樹『SFM』11/1997

『恐竜のアメリカというタイトルが目に入ったとき、すぐに連想したのはレイ・ブラッドベリの短編「霧笛」だった。……本屋で買い求めてすぐに地下鉄でページを開くと、『恐竜のアメリカ』はそのイントロを「霧笛」ではじめていた。別に私の勘が鋭いわけではない。著者の巽孝之はいまやこの国を代表する気鋭のアメリカ文学者だが、十代からの熱心なSFマニアだ。そんな人間が《恐竜》と《アメリカ》を冠したタイトルをもってきたら、これはもう「霧笛」から稿をおこす以外にないのである。
亀和田武『本の雑誌』12/1997 

ただし著者は、大原まり子の作品や、映画「ゴジラ」を中心とする日本人の想像力についての考察も忘れてはいない。恐竜をめぐる想像力は、国境を超えるものである。
宇波彰『週刊ポスト』09/19/1997

「恐竜」はゴジラ、ネッシー、鯨、海蛇、悪龍などの文化イメージに置き換えられる。ゴジラは当時核時代の巨大ファンタジーに、龍は巨人幻想に憑かれた海賊ヴァイキングの北欧神話に、メルヴィルの『白鯨』は古生物の巨大怪獣に、ダーウィンのガラパゴス諸島はカート・ヴォネガットや萩尾望都の爬虫類文学に重なり合う。……この恐竜幻想が政治的にも地質学的にもアメリカ集合的無意識を暗示しているという。
秋山義典『幻想文学』03/10/1998

ある時期まで恐竜と鯨が一緒くたにされて考えられていたとか、ゴジラの英語表記が Godzilla で God を含むスペルであって、しかもそれは神道的な解釈も可能であるとか、論議のディテールもすごく知的な刺激に富んでますよ。
亀和田武『鳩よ!』01/1998

多彩な引用のモザイクを散りばめて数世紀を駆け抜ける巽氏の姿は、ギブスン作品中を走り抜けるネット・ハッカーの姿に容易に重なり合う。……著者のいうとおりレトリックと現実とが不即不離ならば、恐竜はすでにわれわれの世界を歩き回っており、われわれの仕事はそのグロテスクな回帰を確認することだからである。
村山敏勝『英語青年』01/01/1998

Tatsumi's voracious reading in scientific materials as well as in literary texts and films generates free-floating speculative thinking, which may cause vertigo. Some may disagree with Tatsumi's often nebulous speculations, but A Dinosaur's America is a serious exploration of the American megalomaniac imagination. The best way to enjoy this study is to exercise what Coleridge calls "a willing suspension of disbelief." Tatsumi's slim but highly charged exploration is a reservoir of wonders.
---Keiko Beppu American Literary Scholarship 1998


【特別掲載】



巽孝之『恐竜のアメリカ』
筑摩書房
1997年、206頁

【目次】
はじめに
第一章 ニューイングランドの岸辺で
1 一〇〇万年の孤独
2 ネッシーから、始まる
3 限りなく恐竜に近い巨鯨
4 浜辺という名の廃墟
5 レッカー文学史序説

第二章 巨大妄想
1 ダーウィンの黒熊鯨とメルヴィルの白子鯨
2 ロマン主義者のガラパゴス
3 恐竜ゴールドラッシュ

第三章 恐竜小説史の革命
1 ダビデとゴリアテ症候群―トウェイン、ヴォネガット、ジェイコブスン
2 神が見世物になるとき―『ゴジロ』を読む
3 白鯨、ハック、ゴジラ―カオス時代の恐竜小説史

第四章 人工恐竜はイディオ・サヴァンの夢を見るか?
1 『ジュラシック・パーク』以前・以後
2 バージェス博物館―『ディファレンス・エンジン』を読み直す
3 怪獣チェッシーはいまどこを泳ぐ?
あとがき
参考文献