2022/08/07

『三田文学』最新号(2022年夏季号)が絶賛刊行中です!

『三田文学』最新号(2022年夏季号)では、二つの特集が組まれています。一つ目の特集「賢治曼荼羅」では、『三田文学』編集長の粂川麻里生先生を司会に、ロジャー・パルバース氏と鎌田東二氏をおむかえした対談「賢治曼荼羅——「ほんたうのさいわひ」は今」が収録されています。デジタル空間の進展や飛躍した科学技術、環境問題の顕在化や昨今の戦争状況をふまえながら、今日において賢治作品とその思想を読み直す意義を熟考します。加えて、パルバース氏による戯曲「銀河鉄道の夜」もお読み頂けます。二つ目の特集は「ウクライナ・ロシアからの声」、ここには、三つの評論と三つの詩が収録されています。とりわけ、アンドリイ・ナコルチェフスキー氏による評論「ウクライナ──自由こそ我らの信仰」は、ウクライナの歴史を詳細に遡りながら、ロシアとウクライナの現状も詳らかにしつつ「自由」の必要性を切実に説きます。併録されている「2022年 2月 24日のロシアによるウクライナ侵攻以降に書かれた詩」の三つも同時代的報告として痛切に響きます。

また、本号には第 27回中原中也賞を受賞された現在大学院在籍の國松絵梨さんと(※CPA詳細)、昨年同賞を受賞された小島日和さんによる対談「詩を教わることはできるのか――詩との出会いから、中也賞受賞まで」が掲載されています。お二人とも学生時代よりインカレポエトリに所属されており、大学の授業をきっかけとして詩を書き始めた経緯や授業の様子、作品執筆の方法や朗読についてなど、幅広くお話しされています。

書評セクションには、同様に、國松絵梨さんによる「声を書きとめる——吉増剛造『詩とは何か』」が収録されています。ここでは、「つかまえたいのにつかまらない」ような「声」をつかむこと、あるいは「声」によってしか「つかまえられない」瞬間としての「朗読」の重要性を浮彫にされています。また、巽先生による書評「フロイトの失敗その後——ファビオ・スタッシ『読書セラピスト』(橋本勝雄訳)」は、フロイトのドラの症例における失敗を起点に、読書セラピストとして登場する主人公ヴィンチェの失敗だらけの人生とその数奇な運命および物語の顛末を極めて魅惑的に示唆されます(読みたくなること必至!)。河内先生による「世界市民という孤児——マリオ・バルガス=リョサ『ケルト人の夢』(野谷文昭訳)」は、実在したダブリン生まれの主人公ロジャー・ケイスメントが、「アイルランドにおいてはイギリス人と見做され、イギリスにおいてはアイルランド人として扱われる。アフリカや南米ではヨーロッパの支配者として拒まれる。どこにいても「追放された者」としての感覚」につきまとわれていたその「孤独」を重厚に照射されます。

ご関心のある方は、ぜひお手に取ってみてください!



『三田文学』
No.150(2022年夏季号)
三田文学会、2022年 7月 11日
定価1000円(税込)

【目次】
■巻頭詩 
鳥の即興 松本邦吉

■小説
マルタの犬 庵原高子
わんにゃっこ 高田朔実

■詩
風の匂いを四人で嗅ぐ 大崎清夏

■対談
詩を教わることはできるのか――詩との出会いから、中也賞受賞まで 國松絵梨×小島日和
[司会]岡英里奈

■評論
未来の不確かさについて トーマス・ブルスィヒ[訳]粂川麻里生

■特集 賢治曼荼羅
  • 対談:賢治曼荼羅 「ほんたうのさいわひ」は今 ロジャー・パルバース×鎌田東二[司会]粂川麻里生
  • 戯曲:パルバース版 銀河鉄道の夜 ロジャー・パルバース

■特集 ウクライナ・ロシアからの声
評論:
  • 「希望の灯(ハイ・ジヴェ・ナジーヤ)」という歌について 原田義也
  • ロシアとウクライナの作家マルコ・ヴォフチョクについて 越野剛
  • ウクライナ──自由こそ我らの信仰 アンドリイ・ナコルチェフスキー[訳]松村美里

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降に書かれた詩 [訳]原田義也:
  • 2022年2月25日 アレクサンドラ・スミリャンスカヤ
  • 2022年2月25日 ユリヤ・バトキーリナ
  • 2022年3月5日 ナーストカ・フェドチェンコ
■追悼・坂本忠雄
  • 悠々と長閑に――坂本忠雄さんの思い出 岳真也
  • 坂本忠雄・没 髙橋勇
  • 遠ざかる「巨人」の足音 粂川麻里生
■学生創作セレクション13
汝、むさぼるべからず 藤本琉平
解説 粂川麻里生

■連載
動かぬ時の扉 [第二回] 辻仁成
父と子 ――家康と信康(四―最終回) 岳真也
琉球弧歌巡礼りゅうきゅうこうたじゅんれい [第四回]吉屋物語ゆしやむぬがたり 宮沢和史
インティマシーの倫理 [第五回]セカイと無世界主義的な愛 山内志朗

■浅草の笑い[第五回]
浅草芸人盛衰記 キネマと菊人形 岡進平
大上こうじの浅草21世紀と浅草 大上こうじ

■文芸時評[第五回]
文学の境界線ボーダーライン  〈父〉の不在と母系の呪縛を超えて 仲俣暁生
予言と言霊   出口王仁三郎と田中智学の言語革命[第九回] 鎌田東二

■短歌/随筆
歌評たけくらべ[第三回] 水原紫苑×川野里子

■俳句/随筆
融和と慰謝の俳句[第二回] 髙柳克弘

■映画評
電影的温故知新 [第十六回] 佐藤元状

■書評
  • パトリック・マッケイブ『ブッチャー・ボーイ』(矢口誠 訳) 原田範行
  • 針谷卓史 『前夜祭』 都築隆広
  • 吉増剛造『詩とは何か』 國松絵梨
  • ファビオ・スタッシ『読書セラピスト』(橋本勝雄 訳) 巽孝之
  • マリオ・バルガス=リョサ『ケルト人の夢』(野谷文昭 訳) 河内恵子

■新 同人雑誌評 加藤有佳織/佐々木義登
■ろばの耳 八木雄二

■格非『桃花源の幻』(原題・『人面桃花』、関根謙訳)刊行記念イベント
追憶の旅――未来へ失われた時間をつなげて 生田直治