この度、開文社出版より刊行された『語られぬ他者の声を聴く——イギリス小説にみる<平和>を探し求める言葉たち』は、戦争と文学を主題としたシリーズ三冊目。主として 20世紀以降のイギリス小説に焦点を置きつつ、ウルフ、ウェルズ、イェイツから、ダールおよびオーウェル、現代作家のバーカー、アトウッド、フラナガン、そして本シリーズの装丁をつとめられてきた矢原繁長氏は自身を対象に、戦争が人間をいかに脆く破壊し、いかに文学に迫り、そこから文学自身が一体何を紡ぎ出すことができるのか、語られてこなかった小さな他者の声に耳をそばだてながら、現代が抱える諸問題に重く根差して問いかけます。
巽先生による巻頭論文「フランクリン博士の子どもたち——フランケンシュタイン、テスラ、そしてガーンズバック」は、SFの父ヒューゴー・ガーンズバックおよび SFの母メアリー・シェリーよりさらにさかのぼるベンジャミン・フランクリンの数奇な文筆人生を基軸に、科学技術のかかえてきた光と恐怖を見据えながら、エジソンの影に隠れてきたニコラ・テスラを貫く煌めく系譜を浮彫にされます。ぜひご一読ください!
『語られぬ他者の声を聴く——イギリス小説にみる<平和>を探し求める言葉たち』
市川薫編著
A5判、352ページ
カバー装丁・扉:矢原繁長
開文社出版、2021年 3月
3,300円(税込)
ISBN: 978-4-87571-887-1
【目次】
はじめに 市川 薫・津久井良充
巻頭論文 フランクリン博士の子どもたち——フランケンシュタイン、テスラ、そしてガーンズバック 巽孝之 石塚浩之訳
第Ⅰ部 語られぬ他者の声を聴く
- 1章 パット・バーカー『ドアの目』論——得体のしれない恐怖という記憶 市川 薫
- 2章 生命科学と資本主義の協同、あるいは現代のディストピア——マーガレット・アトウッド『オリクスとクレイク』における語り/フィクション/共同幻想 岩井 学
- 3章 W・B・イェイツ「一九一六年復活祭」再読——「わかりにくさ」の意義 伊達恵理
第Ⅱ部 〈物語〉は言葉となる日を待つ
- 4章 記憶の庭と戦時の庭——ヴァージニア・ウルフの『幕間』を中心に 森田由利子
- 5章「等価交換」で読み解くロアルド・ダール——散りばめられた理不尽な天秤 武井博美
- 6章 戦争文学と「人間をまもる読書」——文化批判として読むリチャード・フラナガンの『奥のほそ道』 一谷智子
第Ⅲ部 交感する過去と現在
- 7章 やり遂げることのできない戦争の、その先にあるもの——H・G・ウェルズ『ブリトリング氏、やり遂げる』を読む 遠藤利昌
- 8章 G・オーウェル『一九八四年』を四度、読み直す——ポスト・トゥルースの時代にあって真実を見つめる 岩上はる子
- 9章 芸術的可能性としての「神話」 矢原繁長
巻末エッセイ 人間の時間を取り戻す試み——自伝/伝記文学の可能性 早川敦子
あとがき 市川 薫
写真・図版出典一覧
執筆者紹介
【関連リンク】
【関連書籍】
市川薫編著『語られぬ他者の声を聴く——イギリス小説にみる<平和>を探し求める言葉たち』(開文社出版、2021年)
津久井良充、市川薫編著『架空の国に起きる不思議な戦争−−戦場の傷とともに生きる兵士たち』(開文社出版、2017年)
津久井良充、市川薫編著『“平和”を探る言葉たち−−二〇世紀イギリス小説にみる戦争の表象』(鷹書房弓プレス、2014年)
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