2013/03/01

巽先生推薦図書

a)

『白鯨 全3巻』
ハーマン・メルヴィル(八木敏雄=訳)
岩波文庫/各987円
アメリカ文学をなぜ読むのか、その理由を尋ねられる時には、決まってこの一冊を差し出す。アメリカ文学には時代全体を動かすエネルギーそのものを一気に掬い取るところがあり、本書はその最も顕著な実例であるからだ。


b)

『八月の光』
ウィリアム・フォークナー(加島祥造=訳)
新潮文庫/860円
アメリカ南部作家フォークナーは 1955年の来日時に「日本人と同じく自分も敗戦国出身だ」と述べた。それは南北戦争以来の南部家族の伝統継承者としての発言であろう。そんなフォークナーならではの「深い時間」が実感できる一冊。

c)

『母なる夜』
カート・ヴォネガット(飛田茂雄=訳)
ハヤカワ文庫/735円
中高生でも『猫のゆりかご』『スローターハウス 5』は面白く読めると思う。大学生には『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』。しかしさらに齢を重ね人生の酸いも甘いも嗅ぎ分ける年齢になったら、ぜひとも本書を。


d)

『読むことのアレゴリー』
ポール・ド・マン(土田知則=訳)
岩波文庫/4,935円
本書で扱われるのはイエイツやルソー、ニーチェ、リルケ、プルーストなど西欧文学の真髄だ。しかし、著者の深い思考が連れて行ってくれるのは、そもそもわたしたちがものを「読む」ことそのものの面白さなのである。


e)

『Ambarvalia/旅人かへらず』
西脇順三郎
講談社文芸文庫/1,365円
谷崎潤一郎とともにノーベル文学賞有力候補となったモダニズム詩人は古代中世英文学者としても第一級であった。日本における現代文学はすべて西脇がイギリス留学から帰国したときから始まったと言ってよい。必読。


f)

『継ぐのは誰か?』
小松左京
ハルキ文庫/760円
青春小説といったらサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』が定番だろう。しかし小松の本書はそれに優るとも劣らぬ青春小説であるとともに、いまなお科学的洞察の冴える第一級の SF小説。一冊で二度美味しいのだ。


g)

『ファイヤー!』(全4巻)
水野英子
小学館文庫/260~330円 
本書は我が国におけるロック漫画のジャンル的起源にとどまらない。1960年代対抗文化に沸くアメリカ精神をそっくり反映しようと少女漫画のタブーを打ち破った姿勢において、限りなく現代文学に近い物語と言ってよい。


h)

『人間の証明』
森村誠一
角川文庫 /700円
一冊の推理小説を楽しむうちに、読者は戦後の日米関係をめぐる鋭利な洞察にふれることができる。今世紀に入ってからリメイクされた竹野内豊主演の TVドラマ版は明らかにフォークナーを意識した造りになっていた。