2012/12/01

アネックス第2回掲載原稿選考対談レポート

大リーグボール3号
4年 坂雄史

 800字で面白い文章が書け、人と違うことを言えという要求に応えるのは至難の業だ。作品を正しく読み取りながらあえて曲芸的な読みもこなさなければならない。先生が強調されるのは、メタ的な読み、自分に引きつけた独自の読みの重要性である。
 しかし、ここには罠があって、自分が今回の読書会で犯してしまった過ちというのは、裏の裏まで勘ぐりすぎて皆が考えそうな視点に行き着いたところだ。「月明かりの道」の面白さを理解するのに三人の証言の食い違いとするのはベタだと考え、見えない恐怖というところに重点を置いた。これが裏目に出て、結局ありきたりな感想となってしまった。
 裏の裏は表、メタのメタを取りすぎるとメタメタになってしまう。プロではない以上、文章力頼りの直球勝負はできない。目指すべきは、人には読めない変化球のキレ味だろう。だが頼みの変化球もコントロールが悪く、次に来る球が何か分かってはただの釣り球だ。今回の読書会の面白さはこの変化球の良さをどう見せるかに尽きるだろう。

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批判精神に、読書セラピー 
修士1年 細野香里

 今回、院生という立場での書評執筆者として選考会に参加した。扱った作品はビアスの短編「月明かりの道」である。選評にもある通り、そして自分でも常々気にしてはいたことだが、どうも私は物事を素直に、あるいは真面目に受け止め過ぎるきらいがある。選評を通じて自分の物語鑑賞の傾向を知ることができるのは有難いが、文学研究を志す者として批判精神を持たないのは問題だ。先が思いやられる。けれども、よくよく考えてみると、そもそも私が文学部を志望したのは無類の読書好きだったからであり、幼少期から作者が提示する別世界に浸ることにこの上ない楽しみを見出してきた。それが最近は、それこそ純粋な楽しみのためというよりも研究のため必要に迫られて、著者の論の妥当性を疑い、切り込める問題点を探しつつ本を読むことが圧倒的に多くなっている。ならば、束の間研究とは関係のない本を読んで、unreliable narrator だの「皮肉屋ビアス」だのと考えず、素直に物語の世界観に浸るのは私にとって良いセラピーなのかもしれないな、と一人言い訳をしてみたりする、そんな夜だった。

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一番欲しい魔法 
4年 椙浦由貴保

 エンターテイナーがとても好きです。人を楽しませる人、場を明るくする人。そういう人を、私はエンターテイナーと呼ぶことにしています。選考会では、たくさんのエンターテイナーに出会うことができました。
 中でも印象的なのは小谷先生です。先生は、ゼミ生の書評に真剣に頷き、声を上げて笑い、目を丸くして驚いたりと、表情がくるくる変わり、また、書評に率直にコメントしつつ、時には、文学作品に批判的な視点を持つご自身を「意地悪ばあさん」に例えられていました。先生が醸し出す朗らかな空気は、少々緊張していた私の気持ちをさらっとほどき、めいっぱい笑わせて下さったのでした。
 書評の中にも、エンターテイナーは潜んでいます。宇野さんの「ひどいよ、ブラッドベリ!」という、思わず笑ってしまう愛らしい一文には、すっかり気持ちが和んでしまいました。
 対面でも、文を介しても、エンターテイナーの魔法はとけないのですね。そんな素敵な魔法、私も欲しくてたまりません。目指せ、エンターテイナー!と決意を新たにした、とても愉しい選考会でした。

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他者への好奇心 
4年 松本彩花

 短い字数制限の中で独自性を出すのは難しい。特に自分の場合、突飛なことを書こうとしても、大半の読者が真っ先に思いつくような感想を強く抱いてしまうので、結局の所、上手く表現できない。やはり文章に嘘はつけないのである。
 この自身の傾向は「無難に上手くまとめたい」という日頃の行動の傾向が直結しているのだろう。日頃の思考、行動そのものを意識的に変えていかないと、「独自の観点」でものをみることは出来ないのだ。
 しかし、ゼミ生の中には常に「独自の観点」から表現することに成功している者もいる。そういったゼミ生に、素直に感心する一方で、「この人は普段何を考えているのだろう、自分とは全く違う発想をしている気がする…」と、その人物像に強い好奇心が生じる。
 読書会は他者の新たな一面の発見の場でもあり、その人物像に迫ることに醍醐味がある。