2012/05/01

丸善


■■推薦の言葉■■

スーザン・ネイピア
(テキサス大学オースティン校教授・日本研究専攻)


巽孝之の『フルメタル・アパッチ』が物語るのは、日米(そして西欧一般)のあいだの複雑で濃密なダイナミクスだ。ここではそれが、ふつうの影響分析ではおよびもつかないくらい斬新で刺激的な方法論と素材を得て探究される。プッチーニのオペラ『蝶々夫人』から戦後日本の「アパッチ族」小説、そして現代SFを代表する小松左京やウィリアム・ギブスンに至るまで、めくるめくほど多様な作品群を導入しながら、著者は20世紀をめぐる深い思索を展開する。とりわけ、日本と欧米の相互交渉がいかに文化全般の諸問題―たとえば混成文化や被虐精神、植民者/被植民者の心性といった諸問題を―浮上させてきたか、そのいきさつをめぐって。


彼はこう書く。「新たな世紀転換期を迎えたわれわれが飛び込んだのは、きわめてカオス的で異文化間感染にみちた相互交渉がオリエンタリズムとオクシデンタリズム、西欧的生産主義的・理想主義的感性と日本的ハイテク消費主義的・脱歴史的心性とのあいだで生じる世界であった」


本書はこうした「異文化間感染にみちた相互交渉」を力強く語り、学究的洞察を示してやむことがない。著者の対象は高級芸術から前衛芸術、大衆文化にわたるうえに、演劇や映画や文学といったさまざまなメディアを横断していく。第1章は比較文学的な日米メタフィクション論を含み、ラリイ・マキャフリイとの対話の成果が窺われる。第2章は前の世紀転換期における日本文化が他者とどう向き合ったかについて、代表的な作家を取り上げている。第3章はサイバーパンクの帝王ウィリアム・ギブスンを取り上げるとともに、そのほかの現代作家がいかなる日本観を抱いているかに迫る。第4章は消費社会の勃興とともにいかに東京が再構築されたかを、ポウとバルトークと寺山修司という、思いがけない取り合わせによって分析し、表題作「フルメタル・アパッチ」のみから成る第5章では戦後日本史における他者と創造的マゾヒズムの問題がみごとに論じられていく。そして「ゴジラを待ちながら」なるタイトルをもつ結論部では、著名なる怪獣ゴジラを足がかりに絶妙なる日米関係論が展開される。

一読して言えるのは、『フルメタル・アパッチ』がまぎれもない名著だということだ。本書がくりひろげる優雅で胸躍る旅は、やがて読者を、20世紀における西欧と日本の文化的ダイナミクスをかたちづくった深みへと案内してくれることだろう。


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 【丸善】

***目次
◆推薦の言葉(スーザン・ネイピア)
◆著者による参考書リスト(洋書/和書)