1992/02/17

短編 "1955" とアリス・ウォーカーにおける白人観:第二章


第二章

Traynor=Elvis Presley in "Nineteen Fifty-Five"
 Traynorは、実際にはウォーカーによって記されてはいないものの明らかにElvis Presleyだと思われる。その暗示的な要素であり、それが単なる想像でないことを示す論拠を次に見てみたい。
先ず、一つ挙げられるのは白人であるTraynorがいかに黒人らしかったかが示されていることである。作品中では1955年だったが、現実の世界でElvisは、1954年にローカルのスタジオ経営者で、黒人のように歌える白人の少年がいたら百万(人によっては十億と言ったとされている。)ドル儲けてみせると言っていたサム・フィリップスによってその才能を見出され、その年の7月に「ザッツ・オーライト・ママ」でヒットをとばす。彼の育った環境は、「教会のゴスペル音楽、黒人のリズム&ブルース、そして白人のカントリー--- といっても、つかの間の栄光から破滅の道をかけ抜けたハンク・ウィリアムズなどによって、黒人音楽の要素が取り入れられていた---などの、最下層の人びとの心情を表現する音楽に、文字通り全身で浸るようなものであった。」(本間,p.37)といわれている。これは、まさに作品文中に出てくる、次の描写と同じである。
The boy learned to sing and dance livin' round you people out in the country. Practically cut his teeth on you. (GW,p.4)
またこの小説の舞台が、南部であることもElvis Presleyの育った、そして歌手として注目を浴び出した南部とマッチしている。この小説の舞台に関しては、作品中にあらわれるGracie Maeの台詞から推測できる。
What makes you think we're sellin'? He asks, in that hearty Southern way that makes my eyeballs ache. (emphasis mine; GW,p.4)
また、同様にこの小説の舞台が南部であることを示してくれる要素が他にもある。それは、物語に出てくる"magnolias"(p.15)、「もくれん」だ。"magnolia"は、辞書をひいても判るように、形容詞の意味は「南北戦争の前のアメリカ南部の(アメリカ南部に木蓮が多かったことから)」といえる。つまり、"magnolias"という言葉を通じて、読者の頭に自然と浮かぶのものは勿論、南部なのだ。
そして、極めつけは、Traynorの外見がいかにもPresleyらしいことである。
He's about five feet nine, sort of womanish looking; with real dark white skin and a red pouting mouth. His hair is black and curly and he looks like a Loosianna Creole.  (GW,p.4)
また、Presleyは「骨盤を意味する「ペルヴィス」と語呂を合わせて、腰を振り廻しながら歌うプレスリーを「エルヴィス・ザ・ペルヴィス」と呼ぶ言い方が流行したのが、この頃だった。」(本間,p.38)と言われているように腰を振り廻しながら歌うのだが、この事実がまさにこの物語にでてくる。
Lord, if it wasn't Traynor. Still looking half asleep from the neck up, but kind of awake in a nasty way from the waist down. (GW,p.6)
この他にキャデラックに関しても作品中の内容とElvis の事実とつながりをみせる。プレスリーはアメリカの自動車で最高級といわれ、「成功のシンボル」とされるキャデラックを生涯に少なくとも百台は買ったという。その中で語り草になっているのは、1956年に母親に贈ったピンク・キャデラック(母親のグラディスは運転ができなかった)(柳生,p.59)、1960年のリムジーン(伝統靴磨きセット、水の流れるカウンター、テレビ受信機、四十五回転のレコードプレイヤーが付いていた)、通りかかった見知らぬ人に一万一千五百ドルのエルドラードを買い与えた、などの話であり(本間,p.46)、プレスリーの購買癖は有名な事実である。このキャデラックは作品中でGracie Maeに対する感謝の敬意をしめすTraynorからの贈り物として、そしてTraynorの交通手段として何度も登場する。また、この有名な購買癖と一致するのが、キャデラック以外のGracie Maeに対する贈り物の"mink"、"the new self-cleaning oven"、"stuff to eat"、"automatic power tiller"、"(five hundred acres) farm" "a new house"等である。
 その他に行動的な面での共通点は、例えば、結婚に失敗したり、軍隊に参加したり、「バカらしい映画に出るもんでイライラしていた」(訳、p.18)り、"the Emperor of Rock and Roll"と呼ばれたり、Elvisの家を思わせるグレースランドを思わせる屋敷にTraynorを住まわせている点などである。また、1960年から1968年までの実際のPresleyの衰退の時期と一致させるように"I didn't see the boy for seven years. No. Eight." (GW,p.11) 言葉と共に1968年にひさし振りに会わせる。そして、誰もが知っている、晩年の太った、そしてマスコミに登場する典型的Elvisそのものを登場させる。
Traynor comes waddling up the walk. And suddenly I know what it is he could pass for. An Arab like the ones you see in storybooks. Plump and soft and with never a care about weight. … I swear, about ten necklaces. Two sets of bracelets on his arms, at least one ring on every finger, and some kind of shining buckles on his shoes, so that when he walks you get quite a few twinkling lights. (GW,pp.12-13)
私個人として、ウォーカーのTraynorがElvisであることを示した暗示的試みの中で興味深かったのは、文中のウォーカーの言葉の使い方である。例えば、Presleyの歌を示す"rock"という言葉が"Well, we hike back and we sit in the rocking chairs rocking until dinner."(p.16)にでてきたり、Presleyの歌の題名である大ヒットとなった"hound dog"を"They like a pack of hound dogs trying to gobble up a scent."としてTraynor(Presley)自身に言わせていると言う点だ。上記で腰を廻して歌う動作をTraynorがすることを示したが、そのことから、この物語中に出てくるGracie Mae Stillの歌は紛れもなく、"Hound dog"であることを当然明らかにしてくれる。その事と、このTraynorのセリフに出てくる"hound dogs"の言葉の一致は明らかにウォーカーの意図的な行為ではないのか。この"Hound dog"の他にも1969年にメンフィスに戻った時に歌ったElvisの歌、"Long Black Limousine" (Marcus)は、上で示した、Traynorの死を予感させる「黒くて長い車」に例えられていると考えられないか。また、Elvisの「バスルームの中でシートから前にずり落ちて、うつぶせになったままの姿で発見され、救急車で病院に運ばれて手当てを受けたが、ついに息をふきかえさなかったという...」(本間,p.48)死に方がGracie Maeの一緒に暮らしていたJ.Tの"It just settled in his head like a block of ice, he said, and nothing we did moved it until one day he just leaned out the bed and died."(emphasis mine)に酷似している点が興味深い。だが、何よりもTraynorがElvisであることがはっきりするのはTraynorが死んだその年がPresleyの死んだ1977年だったことだ。
以上のようなことからTraynor=Elvisといえると思うが、このことを考える前に次にウォーカーの「歌」に関する思想を考えてみたい。


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