『アメリカ70年代——激動する文化・社会・政治』
ブルース・J・シュルマン 著
巽孝之 監訳、北村礼子 訳
四六変型判、544頁
国書刊行会
2024/04/18刊行
定価: 3,960円 (本体価格3,600円)
ISBN: 978-4-336-07583-3
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巽先生が監訳されたブルース・J・シェルマン著『アメリカ70年代——激動する文化・社会・政治』の書評をまとめました。今後も随時更新していきます。
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本書の語りの特徴は、当時の政治家の発言や、公文書、メディアや批評家の論評などの一次史料を豊富に用いながらも、ポップスやカントリーなど大衆音楽や映画を題材に、時代の雰囲気を包み込むところにある。三部それぞれのタイトルを、当時のヒット曲になぞらえるなど、同時代を生きた者ならではのこだわりと皮肉がある。七〇年代に「再発明」された新たなアメリカは、二一世紀の「私たちの生活に息づいている」のだ。(中略)私たちは、新自由主義的転回がアメリカだけではなく、グローバルに展開した現象だと知っている。シェルマンの物語は、アメリカ社会の変化を内側から克明に描くが、アメリカの国境の内側で完結している。グローバル化や脱工業化など七〇年代の各国に共通する構造的な変化に加え、冷戦、対中政策、ベトナム戦争、中東問題、人権外交、そして「強いアメリカ」などの対外政策の転換が今日にもたらす意味を意識する必要がある。そのとき本書は、私たちがアメリカの内と外から重層的にグローバルな二〇世紀の転回点を理解する重要な拠り所の一つとなる。——梅崎透「アメリカはふたたび「再発明」されるの」『図書新聞』2024年 9月 21日(第 3656号)
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アメリカの 1970年代は、政治の季節だった 60年代と大衆消費社会が進展した 80年代に挟まれた「空白の 10年」と呼ばれてきた。だがその 70年代に育った著者は、この定説に意義を唱える。(中略)著者は 70年代のアメリカに生じた多様な事象を傍証として読み解きながら、今日のアメリカの政治的・社会的・文化的状況はすべて 70年代にその萌芽があったのではないかという自説を展開する。その説得力たるや、今後 70年代に言及せずに現代アメリカは語れないのではないかと思わせるほどのもの。映画・音楽・文学をはじめとするポップカルチャーへの目配りもあり、アメリカ現代史を総合的に捉えようとした重量級の意欲作と言っていい。巻末にある巽孝之氏の解説も秀逸。——尾崎俊介『英語教育』2024年 9月(第 73巻、第 8号)
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1970年代の米国は評価が難しい。戦後の「偉大な米国」と 80年代の冷戦最終盤のレーガン期に挟まれた「特徴のない時代」とされがちだ。本書は米国の歴史学者が音楽や映画など文化の比喩を縦横無尽に紐解きながら、70年代こそが21世紀の米国を築いたことを示す野心的な政治史だ。(中略)原書刊行は 2001年だがが、今読むことに意義があるのはその後の米国を見事に予見しているからだ。二つの分断然り。また、テキサスやカリフォルニアなど「サンベルト」地域の台頭然り。著者が唱えた米国政治の「南部化」の重要性は、21世紀のシリコンバレーに鑑みるとますます納得できる。日本版には米文学の泰斗である監訳者の興味深い解説が盛り込まれている。解説から読むと羅針盤になるだろう。——渡辺将人「「左右」「公私」分断の起源」『東京新聞』(※こちらからウェブで全文お読み頂けます)2024年 5月 26日
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それでは70年代は、この2つの輝いた10年の間で忘れられた過渡期なのか。歴史学者の著者は本書でこんな見方を軽やかに覆してみせる。分かりやすいのが、今に続く南部の台頭だろう。「ディープサウス」と呼ばれ、立ち遅れていた南部は、安い法人税や労組組織率の低さで、ハイテク産業のメッカ「サンベルト」に変貌していく。南部人口は増え、北部の「産業地帯」は「さび付いた地帯(ラストベルト)」に没落する。この70年代の地殻変動のベクトルの上にいまの米国があるというのが著者の主張だ。(中略)今の時代から50年前を意味づけることにはやや強引なところもある。ただ、それでも圧倒的に面白い。70年代に端を発した文化、社会、政治の変化を説明する米国現代史入門の傑作中の傑作だ。——前嶋和弘「米国現代史入門の傑作」『産経新聞』(※こちらからウェブで全文お読み頂けます)2024年 6月 30日