2022/05/08

邵丹氏による『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳——藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』(松柏社)が刊行され、巽先生へのインタビューが収録されています!

邵丹氏による『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳——藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』が松柏社より絶賛刊行中です!

本書は、1970年代に生じていた文学的・社会的変容を背景にしながら、文学の現場において「翻訳」が果たした積極的・創造的な役割を力強く論証します。全体は序章と終章のほか四章構成。序章においては、村上春樹と 1970年代に焦点があてられ、本書が主眼とする「翻訳」の重要性と問題意識が提示されます。第一章は、本書が採用する理論的枠組を昨今に至る翻訳研究の蓄積から確認し、第二章では本書が中心的射程とする 1970年代の歴史的文脈が詳述されます。

そのうえで、第三章と第四章はケーススタディとして位置付けられ、前者は、リチャード・ブローティガンおよび黒人女性作家の翻訳家として知られる藤本和子の翻訳活動およびその「革新的翻訳」のありように光があてられ、後者はカート・ヴォネガットとその翻訳家・伊藤典夫や浅倉久志、飛田茂雄らによる『SFマガジン』を中心した翻訳事業およびその特徴が考察されます。この第四章には、ヴォネガットの文体やその日本における受容、日本 SFの英訳事業や 1970年代のサンリオ SF文庫、あるいは筒井康隆氏をめぐる巽先生へのインタビューが収録されています。終章においては、1970年代を考えるうえでの「若さ」および「若者」の重要性があらためて浮彫にされます。ご関心のある方は、ぜひご一読ください!




『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳
——藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』
邵丹
四六判、531ページ
松柏社、2022年 4月 5日
本体3800円+税
ISBN: 978-4-7754-0284-9

【目次】
序 章 
世界文学としての村上春樹の作品
七〇年代末頃の文学趣味の変革──村上春樹の登場
七〇年代の発話困難──翻訳を通した自己発見
先行研究のまとめ──三つのアプローチとそれへの補足
同時代的想像力とは何か──二つの事例研究(ケーススタディ)の構想

第一章 七〇年代の翻訳を検討するための理論的枠組み
より大きなを読み解く
翻訳の政治性──言葉や文化の力関係
文化的慣性──無視できない地域性や伝統の力
「多元システム理論」と「記述的翻訳研究」
エヴェン=ゾハルと多元システム理論
トゥーリーと記述的翻訳研究

第二章 七〇年代の翻訳が置かれた歴史的な文脈
理想の時代──「太陽族」と呼ばれる戦後派青年像
夢の時代──若者の誕生に伴う「反乱」という形での激痛
虚構の時代──文化の再編成とサブカルチャーの細分化
七〇年代の大きなパラダイムシフト──近代読者から現代読者への転移
近代読者の歩み──先行する読者論
七〇年代における現代読者の肖像──「新大衆」という消費者層の台頭
七〇年代の現代読者像──文学全集と雑誌から見る読者層の二重構造
戦後四半世紀を振り返る──書物の商品=モノ化

第三章 ケーススタディⅠ:ひとりの訳者、複数の作者──藤本和子の翻訳
「エクソフォニー」の系譜に連なる女性翻訳家──「サブカルチャー」的な生き方
六〇年代の小劇場運動における藤本和子の参加(アンガージュマン)
 ▶︎演劇中毒──ふたりの演劇仲間
 ▶︎運動としての演劇──Concerned Theatre Japan の編集作業
 ▶︎地下という流れに惹かれて──対抗的姿勢
立ち上がるマイノリティ、女性たち──黒人女性の「声」の復元
 ▶︎差別問題のパラダイム転換のために──「報告」の力
 ▶︎聞書という言文一致体──もうひとつの地下の流れ
 ▶︎新たなる沈黙に「声」を──『死ぬことを考えた黒い女たちのために』の翻訳
強かな反逆、企てられた革新──日本におけるブローティガン文学の翻訳受容
 ▶︎七〇年代を代弁する小説家──作品群における「パロディ」の活用
 ▶︎ブローティガンのサンフランシスコ時代──戦後アメリカの対抗文化との関わり
 ▶︎小説群が受容された経緯
 ▶︎『アメリカの鱒釣り』における新しい形の正体
 ▶︎ブローティガンの文体的特徴
 ▶︎『アメリカの鱒釣り』における新しい翻訳の正体

第四章 ケーススタディⅡ:ひとりの作者、複数の訳者──日本語で構築されたカート・ヴォネガットの世界
新しい小説の書き手カート・ヴォネガット
 ▶︎力強い肉声の響きを持つ作品群──ヴォネガットの語り口調 
 ▶︎アメリカ小説の崩壊──ニュージャーナリストたちの奪権
Welcome to the Monkey House ──日本におけるヴォネガット作品群の受容
 ▶︎六〇年代の黎明期──SFファンダム、共同体の形成
 ▶︎七〇年代の転換期──打ち寄せる「新しい波(ニューウェーブ)」、薄れゆく境界線
 ▶︎八〇年代以降の発展期──SFが豊かな文芸ジャンルへ
複数の翻訳家によるカート・ヴォネガット世界の構築
 ▶︎▶︎伊藤典夫と『屠殺場5号』(一九七三年)、『スローターハウス5』 (一九七八年)
 ▶︎▶︎池澤夏樹と『母なる夜』(一九七三年)
 ▶︎▶︎浅倉久志と『スラップスティック』(一九七九年)
 ▶︎▶︎飛田茂雄と『ヴォネガット、大いに語る』(一九八四年)
Translator as a Hero ──ヴォネガット受容の中心的な役割を担うSFの翻訳
 ▶︎▶︎翻訳一辺倒時代の『SFマガジン』──SF専業翻訳者の第一世代
 ▶︎▶︎「SFの鬼」福島正実の文学路線──SFの定義をめぐる論争
 ▶︎▶︎七〇年代における知的労働の集団化──SF界の翻訳勉強会の発足

終章 「若さ」に基づく文化的第三領域の生成──二つのケーススタディが示すもの
ポリティカル・コレクトネスへ向かうカウンターカルチャー
文学的な地位向上を経験するSF
七〇年代の翻訳文化──ブローティガン、ヴォネガットとの共振
展望──文化的秩序の「脱構築(デコンストラクション)」のあとに
 
あとがき
註 
参考文献 
索引

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