研究代表の下河辺美知子先生による序章「「マニフェスト・デスティニー」の響き方——時間と空間の物語」は、この “manifest destiny” という当初単に書かれた言葉が、音声 “m'ænəfèst déstəni” として響きわたるその軌跡を、ジョン・L・オサリヴァンの「併合論」(1845年8月)、「本当の権利/所有権」(1845年12月)、ロバート・C・ウィンスロップの議会演説 (1846年1月) の分析を通じて辿り、アメリカの物語がその時間と空間を攪拌し再表出していくこと、それが孕む言語的隠蔽も含めて縁取りし、本書の展望を示されます。
第二部「拡張する空間に響く言葉」所収、大串先生による第四章「西の果てに待つもの——フラー、セジウィック・ルイス・デ・バートンにみるマニフェスト・デスティニー」は、「明白なる運命」と女性作家の関係にあらためて光をあて、東部だけでなく、西部から向けられた女性作家の視点も織りあわせることで、そこに埋もれてた言葉をすくいあげます。また、第三部「アメリカニズムの表と裏」所収の田ノ口先生による第六章「大西洋を渡る建国の父祖——ハーマン・メルヴィルの『イスラエル・ポッター』にみる「アメリカニズム」批判と再創造」は、アメリカ建国譚『イスラエル・ポッター』においてメルヴィルが綴ってやまない建国の父祖の両義的表象、および主人公イスラエルの流動的主体性、ないしその主体性のなさを読み解きます。
加えて、第四部「大西洋のこちら側とあちら側」所収、白川先生による第九章「北米英領植民地保全と奴隷叛乱との闘い——膨張主義以前のストノ事例(1739)」は、「明白なる運命」の席巻する 19世紀から約 1世紀さかのぼるストノ事例を検証することを通じ、オサリヴァンの「併合論」が孕んでいた奴隷制問題、および有色人種支配の問題をあぶり出します。巽先生による最終章・第十章「環大西洋的無意識——カント、コールリッジ、エマソン」は、カントを読むコールリッジを読むエマソンを読みすすめながら、アメリカの知的フロンティアの軌跡、陰に陽に培われてきた創造的読解の足跡を浮かびあがらせます。
ご関心のある方は、ぜひご一読ください!
『マニフェスト・デスティニーの時空間——環大陸的視座から見るアメリカの変容』
Manifest Destiny across Time and Space: A Transoceanic Approach to American Metamorphoses
編著:下河辺美知子
四六判、312頁
小鳥遊書房
2020年 6月
本体 3,000円+税
ISBN: 9784909812384
※小鳥遊書房による本書紹介
【目次】
序章
「マニフェスト・デスティニー」の響き方——時間と空間の物語(下河辺美知子)
第一部 アメリカという空間、陸と海と空と
- 第一章 拡張と迫害——『白鯨』における不可能の共同体(田浦紘一朗)
- 第二章 翼の福音、それとも呪われた凶器?——リンドバーグと飛行の物語(石原剛)
第二部 拡張する空間に響く言葉
- 第三章 アメリカ大衆の言語革命への反抗——ニーチェからみたエマソン(佐久間みかよ)
- 第四章 西の果てに待つもの——フラー、セジウィック・ルイス・デ・バートンにみるマニフェスト・デスティニー(大串尚代)
- 第五章 声を奪われる人びとと拡大する帝国——ジョン・ドス・パソス『U.S.A.』三部作(越智博美)
第三部 アメリカニズムの表と裏
- 第六章 大西洋を渡る建国の父祖——ハーマン・メルヴィルの『イスラエル・ポッター』にみる「アメリカニズム」批判と再創造(田ノ口正悟)
- 第七章 大衆音楽と先住民表象——ジャミロクワイの歴史認識(舌津智之)
第四部 大西洋のこちら側とあちら側
- 第八章 反響するさざめき——『ビリー・バッド』とフェビアン社会主義(貞廣真紀)
- 第九章 北米英領植民地保全と奴隷叛乱との闘い——膨張主義以前のストノ事例( 1739)(白川恵子)
- 第十章 環大西洋的無意識——カント、コールリッジ、エマソン(巽孝之)
あとがき(下河辺美知子)
索引
【関連リンク】
【関連書籍】
下河辺美知子編著『アメリカン・テロル——内なる敵と恐怖の連鎖』(彩流社、2009年)
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下河辺美知子編著『モンロー・ドクトリンの半球分割——トランスナショナル時代の地政学』(彩流社、2016年)