2012/12/01

レビュー

知られざる世界への招待
−−ジュディス・A・マクラウド
『世界伝説地図』(原書房、2013年)

修士2年:田ノ口正悟


  現実をぎゅっと縮めたミニチュア版の世界。わたしはそれが地図だと思っていた。しかし、土地の有り様を正しく記載するはずの地図は、時として、人がいまだ見ぬ世界を想像的に騙るツールにもなる。正しいはずの地図がウソをつく瞬間をあざやかに暴きだしたのが、ジュディス・A・マクラウドの『ヴィジュアル版 世界伝説歴史地図』 だ。

  全8章からなる本書は色彩豊かな地図や絵画をふんだんに用いながら、古代、中世、そして現代に至るまで、人がいかにして知らない世界を想像しつつ地図を作成してきたかを教えてくれる。16世紀の地図では、聖書に登場する東方の三博士の地がアフリカ大陸の未開地域に重ねられ(第3章)、18世紀の人々は、ピープス島という理想郷を南アフリカ南部の地図の片隅に描き込んだ(第5章)。興味深いのは、未知なる土地を夢想する人の欲求には、時代も科学技術の進歩の度合いも関係ないということだ。19世紀アメリカでは、なんと地球の内部が空洞であり北極と南極にはそこに通じる巨大な穴があるという説が喧伝され、当時の社会をにぎわせた(第7章)。

  マクラウドが紹介する地図やエピソードは、一見、人間の誇大妄想の産物のように映るかもしれない。しかし、このような虚実の入り交じる地図の中にこそ、人は知られざる世界へのスリリングな思いを抱くのである。