巽孝之
折しもロッド・スタイガー主演で同作品が映画化されたので、同級生たちと語らい、東京・渋谷パンテオンに見に行った日の記憶が、昨日のことのようによみがえる。今日ではその作者もスタイガーも、そして渋谷パンテオンすら、もはやこの世のものでないとは!
宇宙植民とそのアイロニーを描く宇宙小説「火星年代記」
アメリカ短編小説の傑作に贈られるO・ヘンリー賞や全米芸術栄誉賞などに輝く一方、アメリカSF作家協会が彼の名を冠した年間最優秀脚本賞ブラッドベリ賞を設立。2008年からは学術誌「ニュー・レイ・ブラドベリ・レビュー」も創刊されて再評価が進んでいた。少年時代以降は一家が移り住んだロサンゼルスに長く暮らし、同地にて亡くなった。
ブラッドベリがSFおよび幻想小説という文学サブジャンルを超えて広くアメリカ文学史、いや世界文学史に名を残すとすれば、19世紀アメリカ作家ハーマン・メルビルの世界文学的名作「白鯨」(1851年)をジョン・ヒューストン監督が1956年に映画化したときの脚本家としてかもしれない。ブラッドベリ自身が豪語するように、彼による独創的な再解釈が銀幕に定着したからこそ、文豪メルビルの名はいまも長く語り継がれているのだろう。
多くのジャンルやメディアを横断しながらも、つまるところアメリカ文学そのものの魂と伝統を長く維持し力強く再活性化してきた作家、それがブラッドベリであった。