2000/02/17

Kotani Mari Essays:実録!合宿ライフ98




今年もまた九月になった。九月といえば、巽ゼミ! そう、過酷な合宿ライフが待っている!

わが書庫付き別荘は長野県の富士見町にあるのでそこに寝泊りして、巽孝之クンは原村に緊急設置された合宿所にベンキョーを教えにゆく。

え? わたしの役割? もちろん、わたしは付人である。俗にいうPTAというものである。しかしわたしは生徒の父兄ではなく、センセイの身内。平たくいえば生徒を監督する先生を監督するオブザーバーという役割なのである。こうやって、常日頃からモラルに満ち満ちた全包囲方監視体制を強化することこそ、世界平和に貢献することなのであり、グローバルヴィレッジ化する地球の安泰こそ、わが生涯の喜びなのである。

しっかし、それにしてもモラルコードのキビシイわたしにとって、実のところ合宿ライフは難題続きなのだ。

まずは台風である。こいつらは天衣無縫に暴れ回る上、大挙して押し寄せてくる。例年このモノどもにふりまわされなかったためしはない。しかも、こいつらは、四角四面な法治国家を無視して、毎回違う角度から上陸するため、まるで未来予測がつかないのだ。今年はエルニーニョのせいか世界各地で異常気象だったそうだが、日本は梅雨がなかなか明けず経済状態はよろしくなく、野菜は地中で腐り果てるという、異様にシケた夏だった。富士見町も通年より菌類系の空中浮遊率が上昇していた……ような気がするが、まあとにかく台風はやっぱり直撃していってくれたぜ。

次がゴミ問題である。慣れたからよいのであるが、現地到着後わたしのする仕事のひとつは、庭に生ゴミ用の穴を掘ることなのである。しかも昨今はダイオキシン問題が浮上しており庭で燃せなくなったからなお大変なのである。燃えるゴミと分別ゴミは早起きして捨てに行かなければならない。前の日の夜には出すなとのお達し。で、八時ごろフラフラもっていってもゴミ車はすでにいった後のまつりなのだった。

ほかにも、都会のもの書き生活者で地方の短期滞在人にはありがちな、さまざまな文化的差異が立ち塞がっている。たとえば都市銀行がないとか、飲食店は店仕舞いが早いとか。しかしこのへんは長野オリンピック以後改善されつつある。コンビニは増加し、曲がりくねったあぜ道はまっすぐになり、お洒落なお店もどっとふえ、そもそものお洒落という概念自体が定着するなど、まことにめでたい状況が続いている。

さて、以上のようなコンテクストが用意され、ようやく合宿の話になるのであるが、とりわけ今年は、学部生合宿に先駆けてツレアイが顧問を務める慶應大学SF研究会の二泊三日の合宿があったため、大学院生の分も含め約十日ほどの滞在スケジュールとなった。当初、うへーッと頭を抱えた。実はわたしは新聞や雑誌に原稿を書く売文業を生業としているのであるが、仕事に膨大な資料を使ううえ、同時並行のものがけっこう多い。原稿はどこででも書ける筈だが、資料を持っていくとなると、これはタイヘンなことになる。これってなんとかならないもんだろうか。

今年のマイ課題は機械設置。昨年買って調教してあったPOWERBOOK3400cでいかに原稿を書き、ネットで送るかという点。簡易型の印刷機も用意して接続したり、試し運転をしたり。滞在期間が長いので、作業はゆっくり遂行してまずまずの成績がでる。唯一の難点は、この別荘ではネットに接続されると電話が使えなくなることなんだが、激烈な電話攻勢が減ったんで、これはよしとするか。

というのも、ツレアイが居場所をあっちこっちの編集さんたちに言い散らしたらしく、電話が殺到。FAXもしょっちゅう入ってくる。ほとんどにわかづくりの選挙事務所と化していたのである。

思えば今年は結婚十一周年。最初の数年間は、もの書きとして駆け出しだったためか、ずいぶんヒマだったような……気がする。1990年の記念すべきゼミ第一世代は 5人くらいしかいなかったから、わが別荘で完全合宿ができたのだった。朝から晩までエンエンとおベンキョーしている若者+αを尻目にわたしは庭にゴミの穴を掘ったり(←そのときも掘っていたのだ)、別室でお昼寝をしたり、賄いのフリをしたりしたものだった。

二世代目から一挙にどっと人数が増えてしまい、お子様方は原村ペンション・オルガンにご停泊されることとなったので、通い婚じゃなかった通いゼミの定例スタイルが生まれたのであった。この二世代目が現在のゼミにも何かと深いかかわりを持っている大串尚代&山口恭司というコンビ発祥の時代である。それから数えてン年目。今年のお子様方は、去年にもまして賑やか。昨年は子ネコがニャンニャンしている感じだったが、今年は少年少女探偵団キリリ系のノリ。『金田一少年の事件簿』っつう感じである。

第一日目は移り変わりの激しいメンバーのなかで比較的毎年よく見かける童話作家の向山貴彦クンと運転手の中村江里クン。つい先頃まで人生の絶望の淵にいたと自称する向山クンはなぜか今年は元気いっぱいで、元気ついてに帰りにはメイン州を回って(?)明け方近くに合宿所に帰ったそうである。専門がスティーブン・キングだといういうので、異次元断層を発生させてしまったのかもしれない。翌日翌々日はスプラッタ系の吉見知子クンや千葉耕子ちゃんやお肌のツベツベしたニューフェースらがたくさんやってきて、書庫を見たりお茶をのんだりしてダベリングとなる。最終日には富士見町営温泉であったまった後、バーベキュー大会へお呼ばれする。恒例の「ツレアイとのなれそめ話」やら今年の目玉「裁判パンク」ネタやらが飛び出し、インターネット・ホームページでは御馴染みの高浪三国を実体的に観察する。

いやはや、楽しかった。何かと気忙しい避暑地の合宿なのであるが、ことゼミに関する限り、わたしは飲む・食う・観察するというお気楽な立場で参加しており、朝から晩までおベンキョしている美奈さんにはホント申し訳ないなーと手を合わせつつ、最終日にはゴミの穴を埋めてコンピュータかついで、えっちらおっちら帰ったりしてのでございますです。

(10/22/1998)
Panic Americana #3 (1998) 掲載