2000/02/17

Kotani Mari Essays:こころの風景2



 夫の巽孝之と暮らしはじめて十七年。この間、一週間と離れて暮らしたことなどない。SF好き同士、つまり趣味が共通する、いわゆるおたく同士の同類婚だったこともあって、「よほど気が合ってるのねえ」と友人から心配、いや感動されたりもしているのだが、その実態は、あきれるほどの不一致が原則。

 本好きという共通点はあれど、ライフスタイルもテイストも性格も食い違い、意見もぜんぜん合わないし、だいたい一歩もゆずらないのだ。たとえば音楽の趣味。夫が朝から晩までプログレッシヴ・ロックをかけまくっているときも、同じ部屋に生息しつつわたしはヘッドホンステレオで、プリンスなんかをちゃーんと静かに聴いているのだよ。うむ。まことハイテクは夫婦円満の秘訣です。

 共同生活の基本は、無理に相手に合わせないこと。いくら夫婦だからといって、ロマンチストで夢見るお嬢様のような夫を、わたしの庶民的ギャグセンスに染め抜くなんてことは、決してしてはいけないことなのだ。

 で、相手が何を好きなのか把握しているふりをして、常日頃から押しつけがましく心遣いも見せ、恩も売っておく。そのおかげか、
「キース・エマーソンをカバーしているピアニストの黒田亜樹が、オリジナルより華やかなアニパロ並みにおもしろい音楽家である」
──なーんて、プログレマニアにしか通じない異言語にも多少通じるようになった。互いの世界観がへだたっていればいるほど、会話は止めどなく、おもしろくなるんだよね。(SF評論家)


(朝日新聞夕刊 2004年7月13日第12面に掲載)


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