2000/02/17

Kotani Mari Essays:読むサラダ2



世界中から来るわ来るわ 米国の小さな町で文学会議

 5月末、アメリカはウィスコンシン州マディソンで開催された文学会議に行ってきました。文学愛好家が主催し、作家の講演会やサイン会、さまざまな話題のパネルディスカッションが催される、一種の文学的なフェスティバルです。ジャンルは、SFとファンタジーに特定されてますが、この催しにはとても変わった特徴がありました。フェミニスト中心に運営された「女性たちの文学会議」だったのです。だから出てくる話題も女性に関するものばかり。
 今年は、30年目にあたっている記念大会で、参加者は約1000人。
 想像できるでしょうか。世界中から女性たちがこの小さな田舎町に集まってくる光景を。実はたどりつくのも大変でした。大都市ではないから飛行機のチケットがあっという間に完売してしまったのです。でも参加者はめげません。インターネットで連絡をとりあい、バス、車、電車とさまざまな交通手段を駆使して集合し、SFやファンタジーに登場する伝説の「女性国」が忽然と現れたかのようなイベントになりました。日本ではほとんど見かけることもない、本当に不思議な4日間でした。
 高名な女性作家の似顔絵のついたTシャツの女性が、コーヒー片手にホテルの廊下で政治やハイテクや宇宙旅行について激論を交わしたり、編みものしながら作家の朗読を聞いていたり。日本でアニメ化されたばかりの「ゲド戦記」の原作者、アーシュラ・K・ル・グウィンさんの朗読会もあり、プログラムも充実。そのせいか、今年は男性客も多いね、なんてささやかれるほどです。とは言えほぼ女性という居心地のよさに酔いしれていると、ふだんわたしって、知らないところで随分殿方に気を使っているのね、なんて気づかされました。これぞまさに異世界体験。
 ところで、その会議もたけなわのころ、ホテルの近くに市が立っておりました。ファーマーズ・マーケットです。4月から11月までの毎週土曜日に、議事堂のまわりをテントがぐるっと取り巻き、農家の新鮮な野菜や、焼きたてのパンや、地元名産のチーズ、ソーセージ、そして美しい花々が直売されるのだとか。人々が物や情報を交換し親交を深めている様子がわかります。
 が、午後になるかどうかというとき、「市」はアッという間に姿を消し、町は何事もなかったかのように、ふたたび閑静なたたずまいに戻ってしまいました。忽然と「祭り」があらわれたり消えたり、まるで魔法の国みたいな身軽さです。
 女性たちの文学会議という「女性国」も、そんなフットワークの軽さから生まれたのかもしれませんね。


(読売新聞日曜版 2006年6月11日15面に掲載)

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