2000/02/21

Book Reviews『アメリカ文学史のキーワード』


巽孝之『アメリカ文学史のキーワード (講談社現代新書)』
講談社、2000年


『アメリカ文学史--駆動する物語の時空間』発売を記念して、そのコンピレーション版ともいうべき『アメリカ文学史のキーワード』(講談社現代新書)に寄せられた書評を特集します。慶応義塾大学文学部における「アメリカ文学史」講義に基づいて巽先生独自の視野から再構築された同書は、コロニアリズム→ピューリタニズム→リパブリカニズム→ロマンティシズム→ダーウィニズム→コスモポリタニズム→ポスト・アメリカニズムという流れを新たに導入することにより、地政学的ダイナミズムや人種・性差に対する考察も可能にした、画期的な文学史として、大きな反響を呼びました。以下、おもな書評から抜粋をお届けします。


バイキングの時代から現在までのアメリカ文学の歴史が、多文化主義・脱植民地主義の視点から読み直される。「緋文字」「白鯨」など、古今の名作にも新たな証明が当てられている。
共同<東京新聞、中日新聞、北陸中日新聞ほか>11/5/2000

十五世紀末、コロンブスのアメリカ大陸発見を起点とすることが主流であったアメリカ史研究に異を唱え、北欧ヴァイキングが北米に到達してから、南欧系、英国系の植民地主義を経て現在に至る一千年の時間軸でアメリカ文学史を分析した意欲作。
無記名「文春図書館」<週刊文春>10/19/2000

WASP中心のアメリカ文学史を脱神話化する冒険的な試み! 巻末の年表もすばらしい!
本書はタイトルからも窺えるように、米文学史の入門書であると同時に、たんなるガイドブックの域をはるかに突き抜けた、すこぶる奥の深い、そして常軌を逸して面白い米文学論である。何より画期的なのは、従来のWASP中心の文学史とは決定的に異なり、著者自身言うように、「グローバリズム以後の時代にふさわしいアメリカ文学史のかたちを模索する試み」である点だ。
藤崎康<bk1>10/23/2000

本書は、著者がこれまでに上梓した数多い批評書の中でも、最も遠大な通史的枠組みを打ち出したものであり、アメリカ文学を総体/相対として見晴らす、という前人未到の試みである。筆者の独断によれば、これは、著者の前作『メタファーはなぜ殺される』を数倍上回って刺激的な本であり、体系的かつスリリングに構想された流動感に貫かれている。本書を読まずしてこの先教壇から米文学史を講ずることは、もはや職業的怠慢であると言っても誇張ではない。
舌津智之<英語青年>2001年1月号

「ヴァイキング・サーガ」から語られるが、その口調は滑らかで縦横無尽に時間軸を駆け巡り、まるで広大なアメリカ大陸を飛び回るようにアメリカ文学・文献を独自の視点で渉猟する。(中略)後書きにあるように個人で文学史をまとめるなど「ミッション・インポシブル」であることは承知しながら、なお「単独の個性」によってまとめる意義を感じたという著者の言葉に深くうなずく。知的巨人・巽孝之の個性に貫かれた刺激いっぱいのアメリカ文学史である。
荒このみ「イズムで語る文学史」<週刊読書人> 11/17/2000

 [『アメリカ文学史のキーワード』は]十世紀後半、北欧のバイキングがアメリカ大陸を「ヴィンランド」と名付けた時代から説き起こし、「コロニアリズム」「ピューリタニズム」から、現在の「ポスト・アメリカニズム」までを、編年体で綴る通史だ。例えば、ロバート・A・ハインラインのSF小説「夏への扉」や、ロバート・ゼメキス監督のハリウッド映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の起源は、<人生の初期における過ちは、あたかも誤植のように以後の人生においていくらでも修正可能>という、ベンジャミン・フランクリンの時間観にある---という具合に、文学に流れる精神の来歴を読み解いている。
山内則史「20世紀の米文学を考える」<夕刊読売新聞>10/28/2000

数あるアメリカ文学論の中でも本書が特異なのは、アメリカ文学史を1千年までさかのぼって考察している点だろう。北欧のヴァイキングが大陸に「ヴィンランド」と名づけた時に、実はアメリカ文学の源流は始まっている。コロニアリズム、ピューリタニズム、ダーウィニズム、コスモポリタニズムなどのキーワードで歴史をひもといてゆく本書は、文学史というより壮大な思想史だ。
無記名「eとらんす」<翻訳の世界>2000年12月号

従来のアメリカ文学史の常識を打ち破る記述がいたるところに見られ、なかなか刺激的である。とくにプッチーニのオペラで名高い「蝶々夫人」の原作が19世紀末のアメリカの小説であることを紹介、当時のアメリカ社会におけるアジアに対する愛憎二筋の感情を語りつつ、今日のアメリカの多元文化主義を論じたくだりは、鮮烈な印象を残す。
無記名<週刊新潮>11/9/2000
海外へも紹介されました。
The slimness of Tatsumi's Key Concepts [in American Literary HIstory] is quite deceptive because the pocket-size paperback is an intricate jigsaw puzzle of Amerian literature deconstructed and restructured around Tatsumi's seven key concepts [. . .]. Tatsumi here applies the same strategiv reading of American literature tested earlier in his New Americanist Poetics.
---Keiko BEPPU "Japanese Contributions." American Literary Scholarship: An Anual 2000. Ed. David J. Nordloh. Durham: Duke UP, 2002. p.496.


『アメリカ文学史のキーワード』に写真、正典20精読、コラム、索引を増補した決定版『アメリカ文学史---駆動する物語の時空間』は全国書店にて好評発売中(本体価格2,400円)。資料的価値の高い文学史年表もアップデートされています。