第一部「エコクリティシズムの源泉」は、19世紀のアメリカ文学作品における環境意識の芽生えを捉え(John James Audubon /Melville /Hawthorne /Thoreau /Twain /Poe)、第二部「エコクリティシズムの現代的展開」は、アメリカン・ルネサンス以降のエコクリティシズムの展開を探り、その多角的な方法論の可能性を示します(Carson /Rick Bass /Ruth L. Ozeki /Jan Harper-Haines / Alistair MacLeod)。
続く第三部「SFとポストヒューマン」は、現代社会が直面する問題を SFはいかに描いてきたのかを探りつつ、ポストヒューマンの概念が 21世紀だけでなくそれ以前の作品解釈にも有効であることを示します(Shelley /Wells /Bradbury / Octavia Butler /Hawthorne /Wilde /Vonnegut /Bacigalupi /上田早夕里 /日野啓三)。最後の第四部「核時代の文学」は、1945年以降の作品において作家たちが核時代を生きるためにいかに模索してきたかを検討します(Hughes / Rudolfo Anaya/ Malamud /Juliet S. Kono /Marie Clements)。
巽先生による終章「聖樹伝説─ヨセミテの杜、熊野の杜」は、巽家に伝わるヨセミテ国定公園トンネル・ツリーの前に立たれる巽孝之丞氏の写真を起点としつつ、ヨセミテ国定公園設立に寄与したジョン・ミューアの自然保護運動、巽孝之丞氏が加入されたサンフランシスコ福音会の知的ネットワークおよび氏と南方熊楠との交流、そして熊楠の和歌山神社合祀反対運動を参照することで、世紀転換期における環太平洋的生態学研究の可能性を探られます。
ご関心のある方は、ぜひご一読ください!
『エコクリティシズムの波を超えて−−人新世の地球を生きる』
Crossing the Waves of Ecocriticism: Living during the Anthropocene
編:塩田弘、松永京子、
浅井千晶、伊藤詔子、大野美砂、上岡克己、藤江啓子
A5判、436頁
音羽書房鶴見書店
3,800円(+税)
2017年 5月
*音羽書房鶴見書店による本書紹介
【目次】
はじめに 松永京子
序章
第四の波のかなた─エコクリティシズムの新たなる歴史編纂的比喩を求めて スコット・スロヴィック/伊藤詔子訳
第 Ⅰ部 エコクリティシズムの源泉─風景の解体と喪失
- 作家オーデュボンの先駆性─辺境の他者表象から探る 辻祥子
- メルヴィルの複眼的自然観─野生消滅への嘆きから自然の猛威の受容へ 大島由起子
- メルヴィルの『雑草と野草─ 一本か二本のバラと共に』を読む─自然の蘇生と自然を通しての人間の蘇生 藤江啓子
- 「ナショナルな風景」の解体─ホーソーンの「主として戦争問題について」をめぐって 大野美砂
- 産業革命による個の発見と喪失─ソローと漱石の鉄道表象 真野剛
- マーク・トウェインの自伝と〈ミシシッピ・パストラリズム〉 浜本隆三
- ポーとポストヒューマンな言説の戦場─「使い果たされた男─先のブガブー族とキカプー族との激戦の話」 伊藤詔子
第 Ⅱ部 エコクリティシズムの現代的展開─語り始めた周縁
- レイチェル・カーソンの『潮風の下で』─ヘンリー・ウィリアムソンの影響を探る 浅井千晶
- 地図制作者が描く幸福─ソローとリック・バスの挑戦と実践 塩田弘
- ルース・オゼキの『イヤー・オブ・ミート』とメディア 岸野英美
- アラスカ先住民族の病─疫病の記憶と後世への影響 林千恵子
- アリステア・マクラウドと環境に関する一考察─故郷はいつもそこにあるのか 荒木 陽子
第 III部 SFとポストヒューマン─境界のかなたへ
- SFにおけるエコロジー的テーマの歴史の概観 デビッド・ファーネル/原田和恵訳
- ナサニエル・ホーソーンはポストヒューマンの夢を見るか 中村善雄
- ポストヒューマン・ファルスとして読む『真面目が肝心』 日臺晴子
- カート・ヴォネガットのエコロジカル・ディストピア─『スラップスティ ック』におけるテクノロジーと自然 中山悟視
- ポスト加速時代に生きるハックとジム─パオロ・バチガルピ小説におけるトウェインの痕跡 マイケル・ゴーマン/松永京子訳
- ポストヒューマンの世界─上田早夕里『オーシャンクロニクル』シリーズにおけるクイア家族 原田和恵
- 日野啓三の文学における物質的環境批評─ティモシー・モートンとブライアン・イーノを手掛かりに 芳賀浩一
第 Ⅳ部 核時代の文学─アポカリプス、サバイバンス、アイデンティティ
- ラングストン・ヒューズの反核思想─冷戦時代を生き抜くシンプルの物語 松永京子
- ルドルフォ・アナーヤの四季の語りと核 水野敦子
- 核戦争後の創世記─バーナード・マラマッド『コーンの孤島』と喋る動物たち 三重野佳子
- 火に生まれ、火とともに生きる─ジュリエット・コーノの『暗愁』 深井美智子
- ジュリエット・コーノ『暗愁』における有罪性─エスニック文学の新しいナラティブをめぐって 牧野理英
- 燃えゆく世界の未来図─マリー・クレメンツの劇作にみるグローバルな環境的想像力 一谷智子
終章
聖樹伝説─ヨセミテの杜、熊野の杜 巽孝之
おわりに 塩田弘
人名・事項索引
執筆者紹介
【関連リンク】
エコクリティシズム研究学会
【関連書籍】
塩田弘、松永京子、浅井千晶、伊藤詔子、大野美砂、上岡克己、藤江啓子編『エコクリティシズムの波を超えて−−人新世の地球を生きる』(音羽書房鶴見書店、2017年)