本にだって雄と雌があるそうです。
語り手の土井博は、幻書ハンターで大学教授の祖父深井與次郎と、画家の祖母ミキの紆余曲折の人生を、息子恵太郎に再話していきます。徐々に明かされるのは、魅力溢れる家族史や(家系図付録)、永遠のしゃっくりに憑かれた與次郎生涯のライバル亀山金吾(鶴山釈苦利)との因縁、與次郎とミキの変な恋。これら諸々が、日記/手紙/書物の引用とともに、博のたいへん軽妙な文体で綴られていきます。太平洋戦争や日航機墜落事故など現実の歴史を参照しながらも、本に雌雄あり子供ありの幻想世界。すてきなカバーイラストの白象も、読めばさらに味わい深いこと必須です。
小谷先生の解説では、『ナルニア物語』『指輪物語』『ネバーエンディングストーリー』『ハリー・ポッター』などに書物をめぐるファンタジーは見られる一方、氏が「本の生態学」を想定し描きあげた点をユニークさとしてご提示。また、本書のもつ「上質なユーモア」を指摘されながら、日本ファンタジーノベル大賞受賞作品『増大派に告ぐ』との差異もご解説されます。
気付くと本が増えている方、ぜひご一読ください!
『本にだって雄と雌があります』
小田雅久仁
新潮社/文庫/ 474頁
カバー装画:北澤平祐
2015年 9月/ 710円+税
*新潮社による本書紹介
【関連リンク】
- YOMIURI ONLINE にて、小谷真理先生と小田雅久仁さんによる対談「憂き世を面白く」が掲載されています!(CPA: 202013/01/15)
- 第 21回日本ファンタジーノベル大賞(小田氏による受賞のことば、小谷先生による選評がお読みいただけます/新潮社HP)
【関連書籍】
小田雅久仁『本にだって雄と雌があります (新潮文庫)』(第 3回 Twitter文学賞 国内部門:新潮社、2013年;文庫、2015年)
小田雅久仁『増大派に告ぐ』(第 21回日本ファンタジーノベル大賞:新潮社、2009年)