今号では多くの連載が最終回を迎えます。これまで紹介してきた朝吹真理子氏と索南才譲氏による「往復書簡:大草原と東京をつなぐ文学の通信」も第三回・最終回「創作への想い——大自然に包まれる命」となりました。「ゆめ」という長編小説を書き進めながら「情動」の重力とその怖さに想いを馳せる朝吹氏に対し、索南氏は約 20年前の自らの巡視員時代を振り返り、自然のなかに生きる「命」のありようを考察します。
また、前田速夫氏による「対比列伝 作家の仕事場」も「第八回・最終回:更新される時空 磯﨑憲一郎vs上田岳弘」を迎え、今福龍太氏による「群島創世記」も「第四回・最終回:あらたなる帰郷へ――群島の難破者たちの未来」となりました。リレーエッセイの「詩/エッセー/詩から明日へ」は永方佑樹氏による「第九回・最終回:詩という明日へと」、「演劇随想/舞台の輝き」も相馬千秋氏による「第九回・最終回:アジアの観客席からみる新しい風景」を迎え、これまで紹介してきた佐藤元状先生による「映画評:電影的温故知新」も「第二十八回・最終回:『長江哀歌』、あるいは生きられた時間について」となりました。
書評セクションでは、巽先生によるエヴァン・ダーラ『失われたスクラップブック』(木原善彦訳)の書評「チョムスキー文学の誕生」が収録され、著者ダーラの「ダラダラしていて行き当たりばったりな語り」と「壮大な時空間から多様な断片を組み合わせ、文字通りスクラップブックと呼ぶほかないモザイク」としての本書のよみどころをあますところなく教えてくださいます。また、河内先生によるイ・ソス『ヘルプ・ミー・シスター』(古川綾子訳)の書評「哀しみと希望の連帯物語」は、韓国におけるほとんどどんづまりに近い「今」をなんとか生き抜く登場人物たちのなかにも「作家の希望の視線」を見出します。「生きることはには哀しい試練が付き纏う。家族や友人も含めて、他者と連なることによってのみこの哀しみに抗することができるのかもしれない」。
ご関心のある方は、ぜひご一読ください!
【目次】
■巻頭詩
転落図 久谷雉
■第一回永井荷風文学賞 発表
受賞作田中純『磯崎新論』
永井荷風文学賞実行委員長のご挨拶 市川市長田中甲
第一回永井荷風文学賞 選考会 安藤礼二×岡田利規×金原ひとみ×蜂飼耳×松浦寿輝[司会]荻野アンナ
永井荷風文学賞候補作:真夜中に寂しくなったときに観たい演劇 江本純子
■第一回永井荷風新人賞 発表
受賞作コーロキの蒐集 春野礼奈
受賞作夜警 湯谷良平
選評 いしいしんじ/青来有一/田中和生/持田叙子
■小説
前日 辻仁成
わたしたちの融点 恩田ゆみ
ベテルギウスの疾走 針谷卓史
■詩
夏の宿題 草間小鳥子
■往復書簡
大草原と東京をつなぐ文学の通信[第四回・最終回]
創作への想い――大自然に包まれる命 朝吹真理子/索南才譲
■評論
メタ言語学序説 あるいはチョムスキー 橋本陽介
愛の見える場所――山川方夫小論 奥憲介
■小特集 原民喜生誕一二〇年
広島のデルタに… 豊永浩平
語りを均す死 永方佑樹
〈ある時刻〉を延命するということ――原民喜小論 石橋直樹
はじまりもおわりもない 小島日和
はじめての文豪 鳥山まこと
■追悼 曽野綾子
凛とした理性――強さと覚悟と 加藤宗哉
曽野綾子氏追悼――蛇のように、鳩のように 庵原高子
■追悼 古屋健三
闇と偽悪の人 鷲見洋一
教壇の魔術師 荻野アンナ
■連載
■対比列伝 作家の仕事場[第八回・最終回]
更新される時空 磯﨑憲一郎vs上田岳弘 前田速夫
■群島創世記[第四回・最終回]
あらたなる帰郷へ――群島の難破者たちの未来 今福龍太
■リレーエッセー/論
■詩/エッセー/詩から明日へ[第九回・最終回]
詩という明日へと 永方佑樹
■演劇随想/舞台の輝き[第九回・最終回]
アジアの観客席からみる新しい風景 相馬千秋
■短歌/随筆
歌評たけくらべ[第十五回/第十六回・最終回] 水原紫苑×川野里子
■俳句/随筆
融和と慰謝の俳句[第十四回] 髙柳克弘
■映画評
電影的温故知新 [第二十八回・最終回] 佐藤元状
■学生創作セレクション15
トルソーの扁桃核 武藤華乃
解説 粂川麻里生
■書評
待川匙『光のそこで白くねむる』 金子薫
豊永浩平『月ぬ走いや、馬ぬ走い』 石橋直樹
エヴァン・ダーラ『失われたスクラップブック』(木原善彦 訳) 巽孝之
イ・ソス『ヘルプ・ミー・シスター』(古川綾子 訳) 河内恵子
新 同人雑誌評 加藤有佳織/佐々木義登
ろばの耳
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